江湖好漢録/武勇双侠
  作者: ミコ   2017年03月27日(月) 22時30分25秒公開   ジャンル:武侠
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第三部『ひとときの安息』

京虹はいろいろ気になってなかなか寝付けないので庭に出てみると、純月が剣を振っていた。

京虹
「おい、もう夜だぞ。なにしてんだ?」

純月
「見りゃわかるだろ、剣の稽古だよ。もしや連哥の歯ぎしりで眠れないのか?」

京虹
「双剣か、そこそこサマになってるな。手合わせしてやろうか?」

純月
「ホントか?」

純月は両手に握った剣を両外方向に回転させながら京虹の方へ向かっていった。
京虹は竹筒から剣を抜くと、先ずは純月の右手の剣を祓うと、左手で純月の左手首を掴み身動きが取れないようにした。
すると純月は祓い退けられた右手の剣を内側に向け、京虹の懐に差し向けた。

京虹
「なかなかやるじゃないか」

純月
「まだまだだよ。人の懐に入るのは得意なんだけどね。ところで京哥はなんでこの町に来たんだ?ホントに復仇が目的なのかい?」

京虹
「あぁ」

純月
「それってまさか、親のため?」

京虹
「、、、、」

純月
「親の仇は息子がって言うけどさ。でも京哥がたまに見せるあの目つきはどこか寂しげで、でもなにか恐いようにも感じてたよ」

京虹
「連哥にも聞かれてまだ話してないけど、聞きたいか?」

猟師だった京虹の父親は、病弱な妻と一人息子である京虹のために毎日山奥で狩りをしていた。
今から二年前のある日、なかなか山から戻らない父を探しに出かけると傷を負った父が倒れていた。

父の指差す方を見ると、木の陰から男が走り去るのを見た。
京虹はとっさに父が猟に使っていた刀を手にその男を追いかけると、男は京虹に向かってきた。
必死で父から教えられた刀法で向かっていくがまったく敵わず、鎖で首を絞められ逃げられてしまった。

父を家に連れ帰ったが、内傷が酷く三日後に亡くなった。亡骸を葬り去ったあと猟師を継いだ京虹は病弱な母と暮らしていたが、ある日猟から戻るとその母も倒れていた。
その場からは母が内職で作っていた狼牙の首飾りもいくつか消えていた。
母もその時の衝撃で数日後に亡くなり、京虹はその日から父の形見の刀を両刃の剣に研ぎ直すと独自で剣術を学び、亡き両親の復仇のため修行を続けていたのだった。

純月
「そいつの顔は見たのか?」

京虹
「顔には頭巾をしてたし、あのときの俺は必死で正直なにも覚えてないんだ。ただ手がかりは俺の首を絞めた鎖の感触と母が襲われた時に落ちていたこの金属製の小さな金具だけだ」

純月
「その首にしてるのがお母さんが作った首飾りか?」

京虹
「そうだ、俺の守り神だ。お前は親はいないのか?」

純月
「あたいの父親は彫師だった。母親は物心ついた時にはもういなくて、父さんが言うには刺青を彫った客に唆されて連れて行かれたって言ってたよ。三年前に父さんも死んで独りになったあたいは彫師も継ぐこともできずにいたんだけど、父さんの弟だと言ってきた男に借金の肩代わりに女郎屋に売られたんだ。でも客を初めて取った日にそいつの財布を盗んで逃げてから、ずっとその仕事で生きてきたんだよ」

京虹
「盗みだけで世間を渡ってきたのか?」

純月
「言ってなかったね、自分で墓穴を掘っちゃったよ。でもここで働けるのなら食うにも寝るにも困らないし、もう足を洗おうと思ってる」

京虹
「俺も気になることが出てきたし、もう少しここにいるとするよ」

翌朝、連飛が庭に出ると青雷が刀を磨いていた。

連飛
「立派な刀ですな」

青雷
「そなたの扇子には敵いませんよ。ここに泊まってるのか?」

連飛
「ええ、しばらく町に居るつもりなので」

青雷
「仕事か?大侠!」

連飛
「私をご存知で?」

青雷
「神掌天龍の名は江湖に居た者なら誰もが知ってます」

連飛
「そなたも江湖に?」

青雷
「二年前まではな」

連飛
「二年前?私も長く江湖に居ますが、そなたの顔に見覚えないね」

青雷
「わしは表立って動いてはおらんかったからな」

連飛
「お連れのお嬢さんは奥方ですか?」

青雷
「違う、彼女は総帥のお嬢さまで、わしは総帥に仕えていた者だ」

連飛
「その総帥という方は一緒じゃないのか?」

青雷
「総帥を失い、同志を失い、行く宛もなくここへやってきたのだ」

連飛
「そなたは碧仙門の方なのか?」

青雷
「では、あのことも知ってるんだな」

連飛
「もちろんですとも。ではあのお嬢さんは第五代掌門であられた洪金威総帥の娘さんなのですね」

青雷
「総帥はお嬢さまをお助けしようと闘った末に、敵の寨主の手により無残な死を遂げられたのだ」

連飛
「そなたはもしや用心棒をされていた方ですね。あれから鋼鎖団も解散したと聞きましたが」

青雷
「寨主もその時の内傷が原因で数日後に死に、跡目争いから仲間割れが起きて鋼鎖団は壊滅した。約一年の間はお嬢さまと山奥で身を隠していたが、残党がまた悪さを始めたという噂を聞いて町へ出てきたのだ」

美琳
「青雷、誰と話してるの?」

青雷
「お嬢さま、おはようございます」

連飛
「私は李連飛。昨日、江湖から来た者です」

美琳
「江湖?」

青雷
「この方は立派な大侠ですのでご安心ください」

美琳
「ワタシは美琳。昨日は店でお見かけしましたね」

連飛
「夕べから連れと隣の部屋に泊まってます」

青雷
「お嬢さま、朝飯は店で召し上がりますか?」

美琳
「ええ。お連れの方は?」

連飛
「起こしたら私たちもすぐ行きますので」

連飛は京虹と欣強を起こすと、店へ向かった。

純月
「おはようございます。皆さん、ご一緒ですね。なにを召し上がります?」

美琳
「今朝の日替わり定食はなにかしら?」

純月
「肉饅頭と魚粥、里芋の煮っ転がしです」

美琳
「お美味しそうね。ではそれを戴くわ」

五人は食事を始めた。

京虹
「連哥、俺は例の件で出かけるぜ」

昭卓
「おはようございます、皆さんお揃いで。あれ昨日の兄さんもいたのかい」

欣強
「大将、昨日は面目ない。おいらは欣強、夕べからこの兄さんたちに弟子入りしたんだ」

連飛
「ここの料理は実に美味い。女将さんの腕は大したもんだ、ご主人も一緒に作るのかい?」

昭卓
「ええ。純月も入ったのでわたしも厨房で女房と一緒に」

純月
「里芋の煮っ転がしはあたいが作ったんだよ」

京虹
「料理が得意とは意外だな。ところでご主人は賭け事に興味があるんだね。俺は夕べ一緒に行ったけどさっぱり判んなくて見てただけだったけどね」

昭卓
「か、賭け事ですか?」

京虹
「あの店には行くこともあるんだろ?」

昭卓
「ええ、近所の好でたまに。主人の夢輝さんとは町内の行事も一緒に」

京虹
「じゃあ、夕べは行事の打ち合わせでもあったのか?店を出た時にご主人に似た人が店へ入るのを見たからさ。それも裏口からね」

蘭花
「あなたー饅頭が蒸し上がる頃ですよ!」

昭卓
「おっと、ちょっと見てきます」

純月
「お待ちどうさま」

京虹
「俺は食ったら出かけるぜ」

欣強
「おいらも」

美琳
「連飛さん、今日はどこかへお出かけ?」

連飛
「いいえ、特に」

青雷
「お嬢さま、どうしても今日行かれるのですか?」

美琳
「青雷が行くところがあるのなら諦めるけど」

連飛
「どこに行かれたいのですか?」

美琳
「町外れにある尼寺までよ」

連飛
「美琳さんが宜しければお付き合いしましょうか?青雷さんも私が一緒なら安心でしょ」

青雷
「ええ」

京虹
「あぁ美味かった、これで一緒に払っておいてくれ。欣強行くか!」

京虹と欣強は一足先に出かけていった。

蘭花
「あの若い剣客の方になにか気付かれてるんじゃない?」

昭卓
「お前が呼んでくれて助かったよ」

蘭花
「あの二人なにしに町に来たのかしら?」

昭卓
「うん、なにかを探りに来てるようだが、少なくとも敵でないことは確かだ」

青雷
「では連飛さん、宜しく頼みます。お気をつけて」

連飛
「町外れまでなら私の黒艶雄で行きますか?」

美琳
「黒艶雄?」

連飛
「私の友である愛馬です」

美琳
「町外れまではどのくらいかかるのかしら?」

連飛
「馬で急げば半時もかかりませんよ」

美琳
「せっかく出かけるのですからゆっくり行きましょう」

連飛
「尼寺へはお参りですか?」

美琳
「お参りもですが、母に会いに行くんです」

連飛
「お母様?一門は壊滅されたのでは?」

美琳
「父は弟子たちには慕われていたけど、夫としては最低の人間だったの。家庭を顧みず高慢でまるで母は召使いのようだったわ。一門を大きくするには仕方ないことではあったけど、母には我慢できなかったのね。
ワタシが二十歳の時で今から三年前に尼寺へ出家してしまったの。
町へ行くと文を出したら返事をくれたので行ってみることにしたのよ」

馬をゆっくり歩かせながら一時ほどで尼寺、蓮妙寺へ着くと若い尼僧に取り次いでもらう。

連飛
「ここで待ってます」

美琳は門を入り中へ歩いていった。
本堂の前に立っていると、そこへ一人の尼僧がやって来て合掌し始めた。

若い尼僧
「紫妙さま、お客さまです」

美琳
「お母様!」

美紫
「美琳なのですね。元気にしてたの?」

美琳
「お母様こそ、全くお変わりもなく安心しました」

紫妙
「青雷は外で待ってるの?まさか一人で来たのではないでしょ?」

美琳
「町へは青雷と来ましたが、ここへは宿で知り合った連飛さんと」

紫妙
「連飛さん?江湖の方ね。お参りが済んだら外庭でお茶でも」

美琳は外で待つ連飛を呼びに行き、紫妙のところへ案内した。

連飛
「お初にお目にかかります。お嬢さまのお供で参りました」

紫妙
「遠くまで有難うございました。貴方の名前は存じていますよ」

連飛
「えっ、私のことを?」

紫妙
「わたしも江湖に居た人間ですから。一門にはほとんど関与していなかったけど、父は武術の道に精通していて科挙の試験官をしていたのよ」

連飛
「試験官を?ではお父様にお会いしていたかもしれませんね」

紫妙
「大分前に退いているから、多分会ってないわ。でも貴方のことは科挙界では噂になっていましたから」

美琳
「連飛さんは有名な方なのですね。青雷も立派な大侠だと言っていたわ」

紫妙
「美琳、あれからずっと気になってました。わたしの気がかりは貴女だけなのよ」

美琳
「お父様も亡くなったわ。戻ることはできないの?」

紫妙
「わたしはもう出家した身、あの人が亡くなったからと言って江湖に戻るつもりはないのよ」

美琳
「江湖にはもう家もないわ。お母様が戻ってくれるなら町で暮らしてもいいのです」

紫妙
「青雷にもう少し世話になったら、素敵な殿方を見つけて幸せになって欲しいの。連飛さんのような立派な方とね」

連飛
「わ、私ですか?」

紫妙
「のようなと言っただけよ。でもしばらく町にいらっしゃるのなら娘を宜しくお願いします。またお参りにいらっしゃい」

美琳
「わかりました」

二人は紫妙と別れ、戻ることにした。

連飛
「他にどこか行きたいところがあればお連れしますよ」

美琳
「そうね、もう少し町を回ってみましょう」

連飛
「ではこの先の丘の上にでも行きますか?」

連飛は美琳を馬に乗せると高台へ向かった。

美琳
「こんなに静かで素敵なところで暮らしていけたらいいのに」

連飛
「このまま青雷さんと旅を続けるのですか?」

美琳
「青雷と町に来たのはこれからのことを考えるためなの。一門の中で自分一人が生き残ったことに彼は責任を感じてるのよ。用心棒という立場でありながら父を救えなかったことをね」

連飛
「鋼鎖団は解散したが、残党がいるからですね」

美琳
「ワタシが幸せに落ち着くまでは、使命を果たそうとしてるのよ。母の言うように早く貴方のような良い人を見つけないとね」

連飛
「のようなでしたね」

美琳
「連飛さんがこの町に来た目的は?」

連飛
「私の父は厳格な武術家で、病弱だった私を鍛えようと八歳の時から私に武術を教え込みました。日が暮れるまで稽古をし体も丈夫になり、優しい母の手料理を食べ幸せに暮らしていたのですが、その幸せも長くは続かず母は病に伏し父も母を案じて武術の世界から遠のいてしまったのです。そんなある日、同じく江湖で武術家として名を馳せていた男と手合わせをした際に、母のことが気になっていた父は集中できず大怪我を負ってしまったのです。その怪我が原因で父も一年後に亡くなり、後を追うようにして母も亡くなりました。責任を感じた父の相手をした武術家の下で武術を学び続けた私は科挙試験を受け位を授かり、江湖で義を重んじる侠客として生きることにしたのです」

美琳
「連飛、貴方は誰かいい方がいるの?」

連飛
「いい方?」

美琳
「想い人とか情人とか」

連飛
「い、いませんよ。武功を高めるので必死でしたから」

美琳
「ワタシのことどう思う?」

連飛
「どうって、お綺麗で品があって知性もあって素敵な女性だと思います」

美琳
「そう言う見た目のことを聞いているのではなく、ひとりの女性として貴方の目にどう映ってるのか、貴方の気持ちを聞いているのよ!」

連飛
「のようなではなく、私で宜しければ幸せにできるよう努力します!」

美琳
「連飛ったら冗談も言えるのね。も、もしかして本気なの?そうなのであれば、ワタシもそのように貴方とは接するけど、それで宜しい?」

連飛
「ええ。ただその前にやらなければならないことが出てきたので」

美琳
「青雷も気にしてる悪党たちのことね。義を重んじる貴方のことだからそうして欲しいわ。この町から悪漢を退治して。ワタシも応援するわ」

一方、人捜しに出た京虹は手がかりとなる小さな金具のことを調べに鍛冶屋に出向いていた。

京虹
「ちょっと尋ねたいのだが、これはなにに使うものかな?」

鍛冶屋
「どれどれ?これは鐶(かん)と言って、普通は丸や角型で繋ぎや留め具に使う物だけど、六角形とは変わってるな」

京虹
「鐶?それともう一つ。鎖の感触はどれも同じかい?」

鍛冶屋
「素材が違えば感触も違う。錆びてれば臭いもあるし重さも違うな。丸い輪を繋げた鎖と喜平とでも違うよ」

京虹
「この町で鍛冶屋はここだけかい?」

鍛冶屋
「あぁ一軒だけだ。俺はここの二代目で二年前に親父が死んでから一人でやってるよ」

京虹
「ありがと。また来るよ」

その頃、徳明と詩音は遊郭、紅蝶楼に呼ばれていた。
大富豪である廻船問屋の息子が一番人気の伎女である秀華を見受けし嫁に迎えるために行われる祝儀の余興だ。

徳明
「本日はおめでとうございます。お招きいただき有難うございます」

詩音は二人のために絵を描いていた。

富豪の家の祝儀とあって、そこには商売人仲間である他の問屋も列席していた。

米問屋
「そう言えば今日は宝石問屋が来てないな」

酒問屋
「店も数日の間閉まってるし、なにかあったのか?」

綿問屋
「聞いた話じゃ、あそこの主人は裏で悪いのと繋がってたって噂もあるらしい。先代の主人はいい人だったが、息子が跡を継いでから店の評判も良くないしな」

絵を描き上げた詩音が新郎新婦に絵を贈ると、新婦の秀華がお礼にと一番のお気に入りの服をくれた。

祝儀が終わった徳明と詩音は酔酒憩廠に向かった。

詩音
「いい祝儀だったわね」

蘭花
「あらその服は?」

詩音
「新婦に戴いたの。一番人気の伎女、秀華さんのお気に入りなんですって」

昭卓
「廻船問屋の息子が見受けか、その秀華って伎女も玉の輿に乗ったってわけだな」

徳明
「そう言えば、祝儀には問屋連中がたくさん集まっていたんだが、宝石問屋の話が出てたよ、裏で悪いことしてたんじゃないかってね」

昭卓
「あれから店も閉めてるし、主人は一体どこに行ったんだろうな」

徳明
「さてと、俺は琵琶の調子を見てもらいに箏屋に行ってくるよ」

詩音
「わたしは好きな花が咲く頃だからちょっと小川辺りまで」

徳明
「気を付けて行けよ。終わったらあとで行くからな」

昭卓も店の準備を始めていると、繁盛してきたお陰で湯飲みや茶碗が足りなくなっているのに気付き、純月に買ってくるようにと遣いを頼んだ。

昭卓
「瀬戸物屋はこの先の二つ目の角だ。寄り道せずにまっすぐ帰るんだぞ!」

純月
「はい。じゃあ行ってきます!」

昭卓
「なあ蘭花、献立を増やさないか?」

蘭花
「豚肉の料理なんていいと思わない?甘辛く煮ると美味しいのよ」

昭卓
「麺類もいいな。私は麺を打ってみるかな」

蘭花
「では早速、買い出しに行ってくるわ」

昭卓
「麺の粉も頼むよ。町も最近、物騒だ。気を付けて行けよ」


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