江湖好漢録/武勇双侠
  作者: ミコ   2017年03月27日(月) 22時30分25秒公開   ジャンル:武侠
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第二部『陰謀の兆し』

酔酒憩廠から走り出た兆軍は日が暮れるのを待ち、隠しておいた荷を馬に積むと根城とする祠へ向かった。

羽丹
「荷は無事に運び出せたか?」

兆軍
「それが姑息な奴に荷を盗まれそうになった挙げ句に、追いかけた先でちょっとしたことがあって」

羽丹
「見られたのか?この間抜けが!それで、ちょっとしたことってなんだ?」 

兆軍
「そいつを問屋の先の酒処で捕まえようとしたら、三人の男にしてやられたんです」

羽丹
「どうせ雑魚だろ?」

兆軍
「それが箸を投げつけられたんですが、あの腕からして相当な奴らですよ。ひとりは店の主人であとの二人は店にいた客で、剣を背中に背負った奴と腰に扇子を差した奴だったぜ」

羽丹
「証拠は残してないから、足がつくこともないさ」

兆軍
「奴らを調べますか?」

羽丹
「ちょっと待て、扇子の男は小柄な奴じゃないか?」

兆軍
「ええ、そうですが。心当たりでも?」

羽丹
「江湖で神掌天龍と呼ばれてる奴かもしれん。扇子を腰に差してる男は奴だけだ。あいつが町にいるんじゃ仕事がやりにくい、様子を見に行くか!」

変装して町へ出て行った二人が酒処の外から覗いていると、男女の二人組が店へ入っていった。

昭卓
「徳さん、今夜もよろしくな。あれ、今日は詩音さんも一緒かい?」

徳明
「実は頼みがあって連れてきたんですよ。彼女にここで商売をさせてもらえないだろうか?」

詩音
「お客さんの似顔絵を描いて、気に入っていただければお代をもらえればと思ってるんですよ」

昭卓
「粋でいいね。構わないよ、やってくれ」

永偉
「酒を一本もらおうか?あれ、ちょっと来ない間に見ない顔が増えたな」

昭卓
「これは美麗堂の若旦那、久しぶりだね」

永偉
「反物や簪の買い付けで半月ほど旅してたもんでね」

純月
「お酒、お待ちどうさま」

昭卓
「この娘は新しく雇った純月で、徳さんの連れのお嬢さんは似顔絵描きの詩音さんだ」

永偉
「似顔絵か、いいね。描いてもらおうか」

詩音
「永偉の旦那は男前だから描き甲斐がありますわ。お気に召したら絵を買ってくださいな。お代は旦那のお気持ちで結構ですので」

柱の陰から覗いてた二人は福章に見つかってしまった。

福章
「そこのお坊さま、今ならお席が空いてますよ。今夜は徳さんの歌があるから、あとになると入れなくなりますよ」

兆軍
「お坊さん?あっ俺たち、いや拙僧のことか?ほ、方丈入ってみますかね」

羽丹
「まずは酒ともみじ揚げをくれ」

福章
「お坊さまが酒と肉ですか?」

羽丹
「ああ、そうであった。では、野菜炒めと茶を頼む」

兆軍
「なんで坊主に変装したかな、失敗でしたね」

徳明の歌が始まり、皆はうっとりしながら酒を呑んでいる。
一曲歌い終わったところで美琳と青雷が店へとやってきた。

純月
「今日は店でお食事ですか?」

美琳
「ええ、素敵な歌声が聞こえてきたからここで食べることにしたの」

徳明
「お客さま、なにか歌のご要望があればお申し付けください」

美琳
「では、『滄海一声笑♪』をお願いするわ」

徳明が歌い出すとそこへ連飛がやってきて、酒と肴を注文し一番奥に座った。

兆軍
「丹哥、扇子の男が来ましたぜ」

羽丹
「やはりオレが睨んだとおり李連飛だったな。オレは二年前からあいつに恨みを持ってた。そして次に会うことがあったら絶対に息の根を止めてやろうと思ってたんだ」

兆軍
「二年前といえば丹哥が鋼鎖団に居たときのことですね」

羽丹
「あの頃のオレはまだ下っ端で大きな仕事には就かせてもらなかった。なんとかして腕を上げて仲間に入れてもらおうと科挙試験を受けたが落ちた。あいつはその時、科挙の最高峰である状元の位を授かったんだ」

兆軍
「状元?そいつはすごい!丹哥の腕でも合格できないなんて科挙試験って難しいんですね」

羽丹
「それが落とされた理由が、殺気が強すぎるって言われたぜ」

とそこヘ京虹もやってきた。

兆軍
「丹哥、剣の男も来ましたぜ。もしやあいつも知ってるんですかい?」

羽丹
「いや、知らねえな。江湖でも見たことがない」

京虹
「また来てるのか?よっぽどこの店が気に入ったんだな」

連飛
「店も気に入ったが、ここに来ればまた京虹に会えるんじゃないかと思ってな」

京虹
「気持ちの悪いこと言うなよ」

連飛
「今夜は歌謡いの兄さんと、絵描きのお嬢さんが来てるぞ」

京虹
「夜も満席とはこの店は相当人気があるんだな」

純月
「京哥、はいお酒。ここが繁盛してるのはあたいがいるからさ。また山羊肉もいるかい?」

京虹
「山羊はもういい、もみじ揚げを頼む。一つ言っておくけど繁盛してる理由は料理が美味いからだ」

純月
「はい。それで、昼から山羊肉食ってつけた精気はどこで使ってきたんだい?もしかして紅蝶楼か?」

京虹
「紅蝶楼ってなんだ?」

純月
「この先にある遊郭だよ!」

京虹
「そんなとこ行くか!」

連飛
「では、山羊肉食ってつけた精気はなんに使うのだ?」

京虹
「やることがあるってあんたには言ったろ!」

純月
「やること?」

京虹
「人を捜してる」

連飛
「見つけたらどうするつもりだ?」

京虹
「復仇だ」

連飛
「おいおい物騒な話だな。歌謡いのお兄さん、『万里長城永不倒♪』を歌ってくれ!」

福章
「永偉の旦那、青菜炒めお待ちどうさま。あっ描けたんですね。すっごい、そっくりだ!」

永偉
「詩音さん、これ取っといてくれ」

詩音
「こんなに頂戴していいんですか?」

福章
「わぁ30文!十年物の武状元よりも高いよ!」

永偉
「さぁ、これを食べたら夢賭庵にでも行くかな。そこのお兄さん方も一緒にどうですかい?」

連飛
「夢賭庵って確かこの町にある賭場だったね」

永偉
「あぁ。お兄さんはどこかで見た顔だね」

連飛
「町に来るのは一年ぶりだが、前に会ったかもしれませんな」

永偉
「そっちのお兄さんは初めて見るね」

京虹
「俺はこの町は初めてだからな。夢賭庵ってのはここから近いのか?」

永偉
「すぐそこだよ」

京虹
「連れてってくれ」

連飛
「賭け事に興味あるのか?報仇だなんて言うから人を殺るのが趣味かと思ったよ」

京虹
「別に趣味で人を殺してる訳じゃない。人が集まる場所なら捜してる奴がいるかもしれないからな」

連飛
「では私も行くとするかな」

純月
「連哥はホントに京哥が好きなんだね」

連飛
「なぜだ?」

純月
「だって京哥の尻ばっかり追いかけてるじゃないか」

連飛
「そうじゃないさ。もしそこに捜してる奴がいたら京虹の腕前を見られるかもしれないからな」

二人は勘定を済ませると、永偉と一緒に夢賭庵へ足を運んだ。

兆軍
「どこかに行くみたいですぜ」

羽丹
「娘さん、あの三人がどこに行くか聞いてないかい?」

純月
「聞きましたけど、お坊さんたちには行けない場所ですよ」

兆軍
「なぜ行けないんだ?」

純月
「だって戒律違反ですもん、僧侶は賭け事禁止でしょ!」

羽丹
「確かにそうだな。では勘定を頼む」

羽丹たちも連飛たちを追うことにした。

羽丹
「この格好はまずい、着替えていこう!」

易者と漢方医に扮した二人は、夢賭庵という賭場の看板を見つけると中へ入った。
そこには連飛たち三人と、浪人風の男が中央で席を取っていた。

夢輝
「いらっしゃいませ!そこのお二人さま、中央席にしますか?外席にしますか?」

羽丹
「中央席で頼む!」

夢輝
「遊技は三人のお客さまで行いますが、どなたから先にやりますか?」

永偉
「連飛さん、京虹さん、どうするかい?」

連飛
「久しぶりなんだろ、旦那が先にやりなよ」

京虹
「俺はよく判らないからやってくれ」

兆軍
「丹哥、どうします?」

羽丹
「まずは様子見にお前がやれ」

浪人風の男
「じゃあ、あとはおれが入れば面子は揃うな」

夢輝
「それでは面子が揃いましたので、始めさせていただきます。イカサマ無しの真剣勝負!負けても勝っても恨みっこなしですよ!ではこの三本の竹籤を引いて赤い印のある方が親となります」

三人は夢輝の握る竹籤を同時に選んだ。

夢輝
「はい。赤い印はそちらの頭に巻物のお兄さん」

10分ほど過ぎ、手札、山札が全部なくなった。

夢輝
「松に鶴、桜に幕が揃った巻物のお兄さんの勝ちとなります!」

永偉と兆軍は賭けた金を全部浪人風の男に渡した。

兆軍
「もう一回だ!」

永偉
「じゃあ、今度は連飛さんがやりなよ」

羽丹
「今度はオレだ」

夢輝
「もうおひと方はどうしますか?」

羽丹
「勝った奴から取り返すさ、もう一度お前がやれ」

また同じように遊技が始められていく。
今度は連飛が親となった。

また15分ほど過ぎ、手札、山札が全部なくなった。

夢輝
「今度も柳に小野道風、桐に鳳凰が揃った巻物のお兄さんが勝者です!」

兆軍
「同じ奴が二度も続けて勝つわけがないだろ?イカサマだ!」

夢輝
「そこの長身の易者さん、ここはイカサマ無しって最初に言ったはずですよ!あんたも易者なら勝負運も自分で占ったらいかがですかね?」

永偉
「おれは常連だけど、この店はイカサマがないことで有名なんだよ!」

羽丹
「そこの扇子の兄さんはどうなんだ?今のをイカサマって見るか?」

連飛
「いいや、さっきもきちんと見ていたし、今は自分もやってたがイカサマ行為は見られなかったね」

巻物の男
「こちらの扇子の兄さんは潔い、そこの粋な兄さんも見るからに品がある。それに比べてそっちの易者の兄さんはどう見ても胡散臭いぜ」

兆軍は拳を握りしめ、立ち上がる。

兆軍
「やるっていうならやってやるぜ!」

京虹
「やるなら本気でやれよ!」

夢輝
「喧嘩は困りますよ、お客さん。やるなら外でお願いしますよ!」

兆軍
「よーし、表に出ろ!」

羽丹
「やめとけ!」

兆軍
「丹哥!」

羽丹
「ご主人、悪かった。また来るぜ!」

羽丹は兆軍の腕を掴み帰って行った。

兆軍
「丹哥、このままじゃ腹の虫が治まりませんぜ」

羽丹
「あの二人に加えてまたも邪魔者が現れたぜ」

兆軍
「奴らは仲間ですかね?」

羽丹
「連飛と一緒にいた剣の若造も江湖では見たことはないが剣客だろう。腕はどうだか判らないが目力もあるし甘く見ない方がよさそうだ。賭場にいた巻物の男もきっと凄腕だろうな、背中の笛を見たろ?あれは得物だよ」

兆軍
「もし奴らが手を組んだら、俺らに勝ち目はない。酔酒憩廠の主人も気になるし、荷を盗もうとした奴もこそ泥っぽいけど油断できないし、あのちびの女も気に入らねえ!」

羽丹
「まず雑魚をなんとかしないとな。弱い者に罠でも仕掛けるか!」

兆軍
「俺の見たところじゃ賭場の女主人は巻物の男となにかありそうだし、絵描きの女は間違いなく歌謡いの女で、酔酒憩廠の主人には女房がいる、それと俺を蹴飛ばしたあの生意気ちび女の四人だ!」

羽丹
「四人か、それなら打ってつけのがいるぜ。鋼鎖団の寨主の弟子だった四人組に頼むとしよう。奴らは女好きの上、金で動く連中だからな」

兆軍
「なんだか楽しくてワクワクしてきたぜ。思い知らせてやる、見てろよ〜!」

一方、賭場に残った連飛たちは、、、

永偉
「続けてあんないい手が揃うなんて運がいいな、お兄さんここは初めてかい?」

巻物の男
「いいや、ここ半月ほど通ってるがなんでだ?」

永偉
「あんたみたいな強い人がきたら、なかなか勝てないと思ってさ。おれはこの先の美麗堂の永偉って言うんだ。良かったらお近づきの印に名を教えてくれないかい?」

巻物の男
「張無雲だ」

京虹
「なんだか場がしらけたな。帰ろうぜ!」

夢輝
「すみませんでしたね。これに懲りずにまた寄ってくださいな」

永偉
「おれはもうちょっと遊んでいくよ。お二人さん、また一緒に呑もうな」

連飛たちが店を出て少し歩き出すと、向こうから昭卓がやってきた。

京虹
「あれ、酒処の主人だよ」

連飛
「しーっ!」

二人が様子を窺っていると、夢賭庵の裏口の方へと入っていった。

京虹
「しーってなんだ?」

連飛
「さっきのをお前はどう見る?」

京虹
「どうって?俺は賭け事はまったく判らないし。まさかイカサマだったのか?あんたさっき違うって言ったろ!」

連飛
「正直、どうやったかは私も判らなかったが、あの店になんかありそうなのは間違いないな」

京虹
「それに気づいたのに金を払ったのか?永偉も知ってて見逃したってことか?」

連飛
「永偉もここの常連だと言ってたろ?やつも絡んでるかもしれんぞ。酒処の主人が賭け事をやることにはまったく問題ないが、なぜ裏口からなのかも訳がありそうだ」

京虹
「そういや、今日はどこで寝るんだ?」

連飛
「酔酒憩廠は客桟もやってるらしい、部屋が空いてたら泊まろうと思ってる」

京虹
「じゃあ、俺も行ってみる」

欣強
「哥さん方!さっきは有難うございました。お陰で助かりました」

連飛
「おっ兄さん、また会ったな」

欣強
「頼みがあってお二人のことをあれからずっとつけてたんです」

京虹
「男に付きまとわれるなんて気持ち悪いな。頼みってなんだよ?」

欣強
「おいらを弟子にしてくれよ」

連飛
「弟子?なんでまた」

欣強
「これまでに数々の仕事をしてきたけど、どうも宝石問屋での一件が気になるんだ」

京虹
「泥棒が泥棒を気にかけてどうする?」

欣強
「盗人には種類があるんだよ。ひとつは空き巣、そしてもうひとつは強盗だ。おいらの場合は前者でそれも貧しい者と善人からは盗まない。おいらの見たとこではあの一件は後者でそれも計画的だ」

連飛
「私たちはこれから宿へ行くが、そこでゆっくり聞こうか」

三人が酔酒憩廠に戻ると、純月が暖簾を片付けていた。

純月
「あれ、また来たの?あっ大泥棒さんも一緒かい?店はもう終わりだよ」

連飛
「そうじゃない、泊まろうと思ってな。部屋は空いてるかい?」

純月
「それなら女将さんに聞いてくるよ」

京虹
「三部屋だぞ!」

純月
「空いてるけど一部屋だけだって。でも二人部屋だから寝台はちゃんと二台あるよ」

連飛
「私は一緒でも構わんが」

京虹
「仕方ないな。歯ぎしりとかすんなよ」

連飛
「そういうお前こそ、寝言やいびきはごめんだぞ」

京虹
「お前はどうする?」

欣強
「一緒でいいならおいらは床で寝るよ」

三人は純月に裏の客部屋に案内された。

純月
「では、ごゆっくりどうぞ!」

京虹
「さっき店にいた綺麗なお嬢さんとそのお付きの男もここに泊まってるんだろ?」

純月
「青雷さんたちのこと?」

京虹
「あの暗そうな男は青雷っていうのか。二人一緒の部屋なのか?」

純月
「別々だよ。気になるのか?」

京虹
「いや、別に」

純月
「あたいと福章はその脇の木戸の部屋にいるからなにかあったら呼んでよね。じゃあ、おやすみなさい」

連飛、京虹、欣強
「おやすみ」

連飛
「ところで捜してた奴は居たのか?」

京虹
「居なかった」

連飛
「居たら殺ってたか?」

京虹
「居たとしても、まさかあそこじゃ殺らないよ」

連飛
「復仇はよくあることだが、理由はなんだ?」

京虹
「聞いてどうする?」

連飛
「代わりに殺ってやるとは言わないが、一緒に捜すくらいならできるぞ。私の方が多少なりともこの町のことは知ってるからな」

京虹
「あぁ。それよりさっきの話の続きをしよう!」

連飛
「金も取られて今日は疲れた。話は明日だ、お前も早く寝た方がいい」

欣強
「さっきの話って賭場でのことかい?」

京虹
「見てたのか?」

欣強
「ついてった言っただろ、外席の端でこっそりと見てたんだ。おいらは明日出かけるから、なんか掴んだら教えるよ」

京虹
「俺も明日は出かけるから戻ったら聞くよ」

欣強
「うん、じゃあおやすみ」

連飛はあっという間に眠ってしまい、欣強も床で大いびきで寝てしまった。

酔酒憩廠で仕事を終えた徳明と詩音は店近くにある家へ戻った。

徳明
「頼んでみてよかったな。永偉はサクラだったけど、それに釣られて他の客の絵も描けて金も稼げたし」

詩音
「酔酒憩廠の主人といれば安全だし、永偉もいい奴だしね。しばらくはここで落ち着けそうね」

徳明
「だけどさっき店にいた坊主を見たか?身なりは確かに僧だったが、奴らはきっと偽坊主だぞ。目つきが凶暴でなんか企んでいそうだったよ」

詩音
「徳明の人を見る目は確かだから、きっと間違いないわね。なにか悪いことが起こらなければいいけど」


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