江湖好漢録/武勇双侠
  作者: ミコ   2017年03月27日(月) 22時30分25秒公開   ジャンル:武侠
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第一部
『小競り合い』

一門を壊滅させられ江湖を追われた碧仙門の生き残りである一人娘の洪美琳は父、洪金威の右腕だった周青雷と旅を続けていた。

青雷
「お嬢さま、この辺りでひと休みして行きましょう」

美琳
「そうね、お腹も空いたしそうしましょう。
ねぇ青雷、中原もワタシが小さい頃に来たときと比べて賑やかになったわね、すごい人だわ」

青雷
「そうですね。わしは総帥が生きておいでの頃によくお供で参りましたが、店も増えましたね」

美琳
「あの店にしましょう」

二人はすぐ向かいにある酒処、酔酒憩廠に入った。

福章
「いらっしゃいませ。なにをお持ちしましょう?」

美琳
「まずはお酒を一本お願いするわ」

青雷
「ここは総帥とよく来た店で、空心菜炒めと牛肉炒めが美味しいのです」

美琳
「では、それをお願いするわ」

二人が料理を待っていると、店の外でなにやら揉めごとが起き始めた。

小柄な女
「おい、そこの兄さん。ぶつかっといて黙って行くつもりかい?」


「ぶつかったのはそっちだろ。誰に向かって言ってんだ!俺さまを誰だか知ってそんな口叩いてんのか?」

小柄の女
「それはこっちの台詞だよ!お前なんて知らねえな、さっさと名乗りやがれ」


「俺さまを知らねえんじゃ、お前潜りだな?よく聞け!天下の大泥棒、欣強とは俺さまのことだ、覚えておけ!」

小柄の女
「自分で大泥棒って言った奴は初めて見るわ。あたいの名は呂純月だ、貴様こそ忘れんな!」

欣強
「腹減った、ここで飯だ!」

純月
「あたいも飯にするとこだったんだ。お先に!」

美琳
「なんだか物騒ね」

純月
「おい、兄ちゃん。この店で一番美味い酒と肴を頼むよ」

福章
「では十年物の武状元、牛肉炒めと空心菜炒めをお持ちしますので少々お待ちを」

欣強
「おい、俺さまにもそれをくれ」

福章
「大将、最近ここも繁盛してきて僕一人では無理ですよ。誰か人を雇ってくださいませんか」

昭卓
「よし、早速貼り紙するとしよう。今日はわたしも店に出るから見つかるまで我慢してくれ」

蘭花
「お酒と牛肉炒め三皿、空心菜も出来たわよ−」

福章
「まずはこちらのお二人様、お待ちどうさま」

昭卓
「武状元はこちらのお嬢さんとそちらのお兄さんですね」

青雷
「お嬢さま、さっさと食べて行きましょう」

美琳
「どうして?ゆっくりしたいわ。ずっと歩き通しで疲れてるのよ」

青雷
「いざこざが起きないうちに早く出た方が」

欣強
「あー美味かった。勘定を頼む」

昭卓
「はい。全部で25文になります」

欣強
「そんなにすんのか?」

昭卓
「十年物の武状元は20文ですので、すみませんが」

欣強
「美味かったからしょうがねえな。あれ、財布がねえぞ」

純月
「ハハハ−天下の大泥棒って大口叩いたやつが、財布がねえだなんて笑わせてくれるわ!」

昭卓
「お客様、いかがいたしますか?」

欣強
「すぐ戻る。待ってろ」

昭卓
「お客さん、食い逃げは困ります。払えないなら働いて払っていただくのはいかがでしょう?ちょうど貼り紙をしようと思ってましたので」

欣強
「なにー?じゃあ、この刀でどうだ?」

昭卓
「そんな名もない刀では足りません」

純月
「往生際の悪い男だな。働いて返せばいいって言ってくれてんだ。潔く皿でも洗いな!」

欣強
「あったま来た!」

欣強はそう言うと隣の席にいた美琳に匕首を向けた。

青雷
「おい、なにをする?刀を向ける相手を違うんじゃないのかな。刀は向けるのはそっちの小柄なお嬢さんだ!」

純月
「おい、そこの老いぼれ。なんであたいなんだよ?」

青雷
「天下の大泥棒さんとやら、お兄さんの財布はそこのお嬢さんの懐の中だ」

純月
「なにを証拠に言いやがる?」

青雷
「さっき、ぶつかったふりして盗み取ったのを見たんだね」

欣強
「返せ!出さねえならその服を剥ぎ取るぞ!」

昭卓
「お嬢さん、このお方のおっしゃる通りなら早く出した方が身のためですよ」

純月
「どうしても出せっていうなら、あたいのこの剣に勝てたらお前の分も払ってやるよ!」

青雷
「あんな錆びた刀で斬られたら、傷が痛余計痛みますぜ。代わりにわしが相手になろうかな?」

純月
「誰でもいい。やるまでさ!」

純月は腰に差した双剣を抜き青雷にかかっていくが難なく躱されてしまい、青雷の長刀で首を突かれそうになった。

昭卓
「どうやらこのお方には勝てないようですね。潔く財布を出された方がいいですよ」

欣強
「さっさと出せ!」

純月は懐から掏った財布を出した。

純月
「役所に突き出すなら、さっさとやれー!」

欣強
「あれ?15文しかねえぞ」

昭卓
「では、やはり足りない分は皿を洗っていただかないとですね。そこでひとつ提案なんですが、お兄さんの分までこのお嬢さんに払っていただいてなかったことにするというのはいかがですか?」

欣強
「主人がそう言うなら仕方ねぇな。じゃあ俺さまは行くぜ!」

昭卓
「お嬢さんにはそうしていただければ、役所には突き出しませんから」

純月
「わかったよ。50文払えばいいんだろ!あれ?40文しかないよ」

昭卓
「では、10文分の皿を洗って行きますか?」

純月
「いいのか?」

昭卓
「ええ、それとこちらの方にお礼を言われた方が。手加減してもらえてなかったら大変なことになってましたよ」

純月
「さっきはすまなかった。大侠、是非ともご尊名を」

青雷
「名乗るほどの者ではない」

純月
「そんなこと言わずにさ。さっきの腕は只者ではないよ」

昭卓
「さぁ、早く皿洗いを頼むよ。福章、洗い場に連れてってやれ」

福章
「はーい。早くこっちだよ」

昭卓
「さぁ、今のうちに」

青雷
「ご主人、すまんな。そうだ、この辺りに宿屋はないか?」

昭卓
「それならうちはいかがでしょう。裏で客桟も営んでおりますので」

青雷
「では、二部屋頼む」

洗い場では−

純月
「なぁ、さっきの男はよく来るのか?」

福章
「どっちの男の人だい?両方とも僕は初めて見たけど」

純月
「貼り紙を見たよ。あたいをしばらく置いてくれないか?」

福章
「じゃあ、大将に頼んでみなよ。ここは飯付き、寝床付きだよ」

純月
「そいつはいい!」

皿を洗い終わった純月が厨房に行くと、昭卓の妻の蘭花が料理をしていた。

純月
「女将さん、大将は?」

蘭花
「店も落ち着いたので、出かけたわ」

福章
「女将さん、この娘さんがここで働きたいって言ってるんですが」

蘭花
「お嬢さんはここらじゃ見ない顔だね」

純月
「今日この町に来たんです。福章に聞いたけどここは飯付き、寝床付きなんでしょ?ここにしばらく置いてはくれませんか?今夜の宿もないんです」

蘭花
「若い娘さんが宿もないんじゃ可哀想ね。亭主には明日にでも話しておくから、福章の隣の部屋で寝るといいわ」

純月
「有難うございます。あたいは純月と言います」

福章
「女将さん、そろそろ時間ですので閉めますね」

純月
「あれ、その料理は?」

蘭花
「これは賄いよ。二人で食べなさい」

二人は暖簾をしまうと蘭花が作ってくれた料理を持って裏の部屋へ向かった。

『縁あらば・・・』

江湖ではひとときの平和な日々が流れていた。
科挙試験で状元の位を授かった李連飛は、久しぶりに江湖を離れ中原に向かうため馬を走らせていた。

あと十里ほどで町に着くところで愛馬の黒艶雄に水を飲ませていると、後ろから一人の青年が歩いてきた。

連飛
「こんな険しい山道を歩いてどこまで行くんだ?」

青年
「そんなの俺の勝手だろ。あんたこそこんな山道を一人で歩いてるなんて危険だぜ」

連飛
「私の名は李連飛。一人が危険と言うのなら一人者同士、友とならんか?」

青年
「俺はずっと独りで世間を渡ってきたんだ。今更、誰とも連むつもりはない」

連飛
「これから久々に町へ行くのだが、飯を食うにも酒を呑むにも一人では退屈なのだ。友とは言わん、暇なときに酒の相手になってはくれぬか?」

青年
「あんたの暇つぶしの相手なんてごめんだぜ。俺にはやることがあるんだ」

連飛
「若者は夢があっていいな。私はもうなにもしたいとは思わない。なぁ、名前だけでも教えてはくれぬか?」

青年
「しつこいな。あんただってそんな年じゃないだろ?それなのにすべてをやり尽くしたって言うつもりか?なぁ、そんなに暇なら俺とここで闘え。それでもしあんたが勝ったら名乗ってやるよ」

連飛
「得物はその竹筒の中の剣か?」

青年
「あんたの得物はなんだ?まさか丸腰で俺と闘う気か?」

連飛
「私はこの扇子だけで十分だ」

青年は竹筒を左手に握りしめ腰を低く下ろすと、右手で柄を掴み真横に剣を抜いた。
そのまま、右足を後ろ足払いで一回転すると剣を真正面に突出し連飛目掛けて向かっていく。

連飛はその剣先を腰帯に差していた扇子で払いのけた。

青年
「ただの扇子かと思ってたら、鉄扇の使い手とはあんた只者じゃなさそうだな。俺の名は呉京虹だ」

連飛
「名乗ったということは、負けを認めるんだな」

京虹
「まだ負けと決まってないが、さっきも言ったように俺にはやることがある。怪我したくないだけだ」

連飛
「この一本道を進めば町だ。目的は町にあるのか?ならば乗せてってやるぞ!」

京虹
「いや、いい。歩いていく」

連飛
「強情だな。ではまた町で会ったときは酒を一緒に呑もう!」

京虹
「あぁ、わかったよ。もし会えたらな」

連飛は黒艶雄に跨がり、走り去った。

町に着いた連飛は酔酒憩廠の外に黒艶雄を繋ぐと、店へと入った。

純月
「いらっしゃいませ。なんになさいますか?」

連飛
「なにが一番美味い?」

純月
「酒なら武状元の十年物で肴なら牛肉炒めと空心菜炒めです」

連飛
「では、それをいただこう」

連飛が注文した酒を呑みながら肴に手を付けると、宿に泊まっている青雷が店へ入ってきた。

青雷
「純月、裏に食事を頼む」

純月
「なにをお持ちしましょう?」

青雷
「今日は魚にする。野菜はなんでもいい、適当に持ってきてくれ」

純月が出来上がった料理を裏の部屋に運ぶと、青雷に話しかけられた。

青雷
「一番奥の席に座っていた客人はまだいるか?」

純月
「一番奥?あぁ、小柄で品のある人のことですか?それならまだいますよ。お知り合いですか?」

青雷
「なぜだ?」

純月
「あの人も青雷さんのことをずっと見てたからさ」

青雷
「純月、外に黒毛の馬が繋いでないか見てきてくれ。奴に気付かれてはならんぞ」

部屋を出た純月はそっと裏口から外へ回り入口を確認し部屋に戻ると、黒毛の馬が繋いであったことを青雷に告げた。

純月が店に戻ろうとすると、入口の外で一人の若者が繋がれている黒毛の馬をじっと見つめている。

京虹
「おい、娘さん。もしかしたら中に腰に扇子を差した小柄な男が来てないか?」

純月
「なんでだい?あんたもあの男に用か?」

京虹
「ん?他にも誰かその男を探してるのか?」

純月
「ただじゃ教えられないね」

京峰
「金を取る気か?」

純月
「その背中の剣を見せてくれたら、教えてやるよ」

京虹
「剣に触るな、怪我するぞ!」

福章
「純月、ここにいたのか。店が忙しいときになにしてんだ!」

純月
「このお兄さんが店に入ろうかどうか迷ってたから入るように勧めてたんだ」

連飛
「娘さん、その男は私の連れだ。酒をもう一本頼む」

京虹
「やっぱりあんただったか。他にも店はあったのになんでまた会うんだ」

連飛
「縁あらば再びってやつだな」

純月
「お酒、お待ちどうさま」

京虹
「山羊肉はあるか?」

純月
「ええ。串焼きですか、それとも汁煮ですか?」

京虹
「両方くれ」

純月(独り言)
「両方って、どれだけ精付ける気だ?」

京虹
「なんか言ったか?」

福章
「純月、これをそちらのお客さんに早く!」

連飛
「山羊肉が好きなのか?」

京虹
「あぁ、そうだが。それがどうした?」

連飛
「いくら好きでも両方じゃ、あとで大変なことになると思ってな」

京虹
「大変ってなんだ?」

連飛
「力が有り余って抑えられなくなるということだ」

と、その時だった。一人の男が叫び声を上げながら逃げ込んできた。

「助けてくれ!」

純月
「お前は昨日の大泥棒!」

欣強
「お前こそ、なんでここにいる?」

純月
「あれからここで働いてるんだ」

欣強
「それより、早く匿ってくれ」

純月
「匿えってなにしたんだ?」

欣強
「いいから頼む」

純月が急いで欣強を厨房脇の暖簾の中に入れると、長身の男が血相を変えて乗り込んできた。

兆軍
「鉢巻き姿のちっちゃい男が来なかったか?」

純月
「ちっちゃいって何尺くらいでしょう?」

兆軍
「ごたごた抜かすな。おいちび娘、隠してたらただじゃおかねえぞ!」

純月
「今度はあたいをちびって言ったな!」

昭卓
「純月、どうしたんだ?」

純月
「こちらの柄の悪い兄さんが人を探してるみたいで」

兆軍
「なに−?柄が悪いだと!」

昭卓
「お客さま、他のお客様もいらっしゃいますのでお静かに願います」

兆軍
「このちび娘が生意気な口を叩いた挙げ句に、俺の追ってる男を匿ってるからだ!」

昭卓
「この娘が生意気を申し上げたことは謝りますので、お食事でないのならどうぞお引き取りを。あっと、生憎満席でした。重ね重ね申し訳ありません」

兆軍
「俺が誰だか知って言ってんのか?」

昭卓
「純月、知り合いか?」

純月
「いいえ」

兆軍
「そんなことを聞いてるんじゃねえ。いいか、俺は泣く子も黙る疾風烈火の兆軍さまだ、覚えとけ!とにかく鉢巻きの男を早く出せ」

昭卓
「これだけお客さまが大勢いますので、ご自分でお探しください」

すると兆軍は純月を引き寄せると、腕で思い切り首を締め付けた。

兆軍
「このちびがどうなってもいいのか?」

昭卓
「やめろ。その娘には関係ないだろ!」

我慢の限界を超えた昭卓は、卓の上の箸を掴み投げつけた。
と同時に後ろ左方向からも二本の箸が飛んできて、三本の箸はすべて兆軍の手に刺さった。

兆軍
「痛ってー、どいつが投げやがった?」

兆軍が手を離した隙に純月は、思い切り兆軍の向こう脛を蹴ると昭卓の方へ走り寄った。

兆軍
「畜生、覚えてろよ!」

連飛
「ご主人もなかなかやりますな」

昭卓
「店とこの娘を守りたかったもんで。でもそちらのお二人さんこそ、わたしよりも遠くから投げたのに見事命中させるとは恐れ入りました」

純月
「ところでそこに隠れてるお兄さん、もう出てきても大丈夫だよ」

昭卓
「純月、匿ってると言うのは本当だったのか?」

欣強
「助かったぜ」

昭卓
「そちらはさっきのお兄さんじゃないか」

純月
「おい、助けてもらったのにその言い方はないだろ。大将とそちらのお二方にきちんと礼を言いな!」

欣強
「おぉ。主人、それと大侠の哥さん方、有難うございました」

純月
「あたいには?」

欣強
「ありがとよ」

連飛
「一体なにをやらかしたんだ?さっきの奴は見間違えじゃなければ江湖で見たことある男だ」

純月
「疾風烈火って言ってたけど何者ですか?」

昭卓
「わたしが知る限りでは最近町に現れた、荒々しい二人組の男らしい」

純月
「そんな奴に追われるなんて、なにしたんだよ?」

欣強
「さっきの男がこの先の宝石問屋の裏口から荷を積み出してんだけど、ちょっと荷を離れた隙に小さな包みを一つだけ戴こうとしたところを見つかっちゃったんだ」

純月
「天下の大泥棒じゃなかったのか?それに真っ昼からよくやるよ」

連飛
「一人で荷を積み出すなんておかしいな」

欣強
「おいらもそこがおかしいと思ってさ。普通、どこかに荷を運ぶなら店の者が立ち会うはずだろ。他には誰も居なかったんだぜ」

京虹
「まさか?」

連飛
「あぁ、そのまさかだ!」

純月
「まさかって?」

連飛
「お代はこれで。すぐ戻る!」

京虹
「俺も行く!」

二人が宝石問屋に行くと表門にも裏口にも鍵がかかっている。

連飛
「どこから入ったのだ?」

と、そこへ欣強が走ってやってきた。

欣強
「おいらの出番かな?俺さまに開けられない鍵はないぜ」

欣強は懐から錐を出すと意図も簡単に鍵を開けた。
中に入り棚の木箱を一つずつ開けてみる。

京虹
「全部、空だぜ」

連飛
「ここの主人はどこだ?誰もいないなんておかしくないか?」

京虹
「留守と知って入ったんじゃ?」

欣強
「あの鍵はそう簡単には開けられないよ」

連飛
「これだけ大きな問屋だぞ。誰も残らず出かけるなんて不用心すぎる」

京虹
「まさか主人は連れ浚われたんじゃないだろうな」

ひとまず三人は酔酒憩廠に戻ることにした。


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