連杰トークや井戸端トークなどお気楽雑談トピック
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By 黄飛鴻
#8895
少林学園卒業ドラマ.JPG
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さてさて、こちらはミコ殿が手掛けられる武侠ドラマ。
卒業式イベントで行われる少林学園総動員の武侠ドラマであります。
豪華メンバーによるドラマは、ここでしか読めませぬぞ☆ :yes:

武術好きのミコ殿が、どのようなドラマを展開して下さるのか楽しみでありますな。
ミコ殿の、まるで目の前で見てるような武闘シーンはワクワクものですな。 :bigsmile:

別トピのhiyoko殿の少林学園完結編とともに、こちらの武侠ドラマもお楽しみ下され☆

それでは、武侠ドラマ「江湖好漢録・武勇双侠」始まりますぞーーーー!!!!
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By ミコ
#8898 師父からもお話がありましたように皆さまにご愛読いただいておりました『少林学園・武侠兄弟』もいよいよ完結編。
書き手であるわたくしもいささか淋しい気持ちではありますが、ラストは相棒のhiyokoさんに華麗に幕を閉じていただくことにして、わたくしは大好きな武侠小説に挑戦です。

武侠小説の代表的有名作家、金庸の如く?お色気作品の代表監督、王晶の如く?仁義と愛、そして「正義は勝つ!」をテーマに、笑いあり、涙ありの物語にしたいと思いますので最後までおつきあいくださいませ。

hiyokoさんはナビゲーターとして登場しますので、ちょっとしたコメントや感想をいただけますと、励みになりますのでどんどんお寄せくださいませ。

そこで始めに武侠小説を楽しく読んでいただくために、専門用語をご紹介したいと思います。

皆さんもよく耳にする単語がおありと思いますが、これを知ることで今作も、よりわかりやすくお読みいただけると思います。

《武侠用語 豆知識》

【場所や団体、敬称】
☆江湖(こうこ) 
皇帝、官僚からなる官界に対する「野」を指す。、
民間世界の象徴で侠客や武芸者、盗賊が跳梁跋扈する武侠世界の舞台。

☆中原(ちゅうげん) 
黄河流域の文明中心地という意味であったが、転じて覇権を争う場所、生活中心地という意味になった。

☆門派(もんぱ) 
各種の武術団体のこと。
厳格な師弟関係による疑似家族型の共同体を形成し、しばしば仁義なき争いを門派同士で行うこともある。

☆邪派(じゃは) 
正々堂々と戦うのがたてまえの正派に対して、カルト教団を信仰して毒などを平気で使う門派。

☆侠客(きょうかく)
江湖を生きる漢(おとこ)
義侠精神が大事で悪漢はこうは呼ばれない。
敬称は「大侠」。女性は「女侠」と呼ばれる。

☆義兄弟(ぎきょうだい) 
生死を誓い合った漢と漢の運命共同体。女性でも結ぶことは当然ある。


☆緑林 (盗賊業界) 
「在野」(官に対しての民間)がある。
長は寨主。

☆掌門(しょうもん)
武術団体(門派)のトップ。総帥、最高師範、一番偉い人。

☆哥 
目上の男性に親しみを込めてつける呼称。
○○兄さんの意味

☆阿
~ちゃん、くんのような呼称で名前の前につける。

☆幇会(ほうかい)
経済的活動を中心とする互助的な団体で、秘密結社を指す場合もある。
長は幇主(ほうしゅ)
馴染みのあるものでは、りんちぇ作品のレジェンド・オブ・フラッシュ・ファイターに登場する『紅花会』


☆採花盗
金品を盗むだけでなく婦女の貞操をも盗む賊。
または強姦魔。

☆科挙 
古代中国の官吏登用試験。隋代より実施され清代まで存在した。猛勉強をしなければ合格はできない。
第一位合格者が状元、第二位が榜眼、第三位が探花。

【技、怪我などの状態】
☆内傷(ないしょう) 
目に見える外傷に対して内臓損傷や皮下出血など目に見えない部分が損傷を受けること。
わかりやすいリアクションは吐血。

☆経脈・経絡(けいみゃく・けいらく) 
内力の通り道。
点穴はこれを塞ぐことで動きを封じる。なんらかのショックでこの通り道が開くと一気に内功が高まり爆発的なパワーアップをすることがある。

☆点穴(てんけつ) 
特定の経穴(けいけつ、ツボのこと)を突いて経脈を遮断する技。相手の動きを封じる攻撃手段として、または毒の循環や出血を止める治療手段として用いる。
解除の際にはもう一度経穴を突くか、内力を循環させて解く。
解除は難しく、また達人ほど効果が強力なため自分より強い人間にかけられた場合は、解いてもらうほかない。

☆剣指(けんし) 
剣を持たない手の指を人差し指、中指をくっつけてあとは握った状態にすること。
この手で点穴をしたりもする。

☆軽功(けいこう) 
高いジャンプ、素早い移動、派手な動きを行うスキル。
達人は水上を走って移動できる。
これを映像で表現したのがワイヤーアクション。
主に北派が重視する。

☆掌法(しょうほう) 
内力をこめた攻撃方法で指を広げた状態で闘う。
手刀、突きが主体。掌から放つ内力は掌力と呼ばれる。
作品内では連飛の得意技。

☆拳法(けんぽう) 
拳を握った状態で闘うスタンダードな技。
南派が重視する。
作品内では羽丹の得意技。

☆腿法(たいほう) 
蹴り技。北派が重視する。
作品内では兆軍の得意技。

【武器】
☆剣 
反りがなく薄く両刃で先端が鋭く尖っている。
「鳳凰のように」使いこなす。
しなる。一番スタンダードな武器で「極めれば剣が一番」
作品内では京虹の得物(武器)

☆刀 
反りがあり、片刃のもの。剣に続いて有名な武器。
「猛虎の如く」といわれるように敏捷で激しい動きで戦う。
作品内では青雷の得物(武器)

☆鉄鏈 
鎖の付いた鉄球。
作品内では兆軍の得物(武器)

【暗器】飛び道具
☆鉄扇
読んで字の如く鉄製の扇子。
作品内では連飛の得物(武器)

☆針
刺すだけでは効果がないため毒を仕込むことが多い。
作品内では鬼影の得物(武器)

☆笛
中に小さな矢や針を仕込み、吹いて飛ばす。
作品内では無雲の得物(武器)

本編をお読みいただく際に参考にしてくださいね!
最後に編集したユーザー ミコ [ 2017年3月22日(水) 09:14 ], 累計 1 回
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By ミコ
#8899 では『江湖好漢録/武勇双侠』の始まりです!

『江湖好漢録/武勇双侠』

〈登場人物〉

《武勇双侠》
※李連飛(リー・リィエンフェイ) 
状元の称号を持つ江湖の侠客
人呼んで『神掌天龍(シェンジャンティエンロン)』
得意技ー神の如き掌で打つ手業
得物ー鉄扇
☆演飾ー呉李連馬(レンマ)
※呉京虹(ウー・ジンホン)
中原に現れた一匹狼の剣客
人呼んで『隼剣山狼(スンジェンシェンロン)』
得意技ー隼の如き速い剣捌き
得物ー狼剣
☆演飾ー呉李京馬(キョウマ)

《盗賊団、疾風烈火(ジーフォンリェフォ)》
※寨主 甄羽丹(ジェン・ユーダン)
人呼んで『疾風連拳(ジーフォンリィアンジュエン)』
得意技ー疾風の如き繰り出す散打
得物ー鉄鎖
☆演飾ー堂仁丹輔(ドニー)
※一番頭 雛兆軍(チュウ・ヂャオジュン)
人呼んで『烈火激脚(リェフォジージャオ)』
得意技ー烈火の如き激しい蹴業
得物ー鉄鏈
☆演飾ー古林龍壱(コリン)

《碧仙門(ビーシェンメン)》
※第五代掌門 洪金威(ハン・ジンウェイ)回想シーンのみ
☆演飾ー洪野金蔵(キンゾウ)
※洪金威の娘 洪美琳(ハン・メイリン)
☆演飾ー洪野妃十三(ヒトミ)
※洪金寶の右腕 周青雷(チョウ・チンレイ)
☆演飾ー龐青雲(パン)
得意技ー碧月斬
得物ー刀
※美琳の母 楊美紫(ヤン・メイシー)
☆演飾ー秋雪美知瑠(ミシェール)

※反物店、美麗堂の二代目 梁永偉(リャン・ヨンウェイ)
☆演飾ー戸西朝臣(トニー)

※酒処、酔酒憩廠(ズイジョウチーチャン)の主人
趙昭卓(ツァオ・ヂャオデュオ)
☆演飾ー趙嶋文卓(マンチェク)
※昭卓の妻 方蘭花(フォン・ランファ)
☆演飾ー方二三香(みに)
※酔酒憩廠の使用人 文福章(ウェン・フージャン)
☆演飾ー福大文章(ターフー)

※酔酒憩廠の歌謡い 劉徳明(リウ・ダーミン)
☆演飾ー安大徳栄(アンディ)
※酔酒憩廠の絵描きで徳明の恋人 蘇詩音(スー・シーイン)
☆演飾ー莉紫苑

※義賊の幇主 張無雲(ヂョウ・ウ-ユン)
人呼んで金笛童子
得意技ーあらゆる門派の技
得物ー竹笛に仕込まれた吹き矢
☆演飾ー無忌

※中原に現れた自称、天下の大泥棒 熊欣強(ション・シィンヂャン)
得意技ー鬼の如き速い脚業
得物ー匕首と錐
☆演飾ー熊田欣七(くまきん)

※賭場、夢賭庵(モンドゥーアン)の女主人 于夢輝(ユー・モンフゥイ)
☆演飾ー吉良ひかり

※中原に現れた自称、天下の女スリ 呂純月(ルー・チュンユエ)
得意技ー胸元に入り込み喉を突く
得物ー双剣
☆演飾ー剣崎京(ミヤコ)

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序章

江湖では数多くの侠客が正義と忠義を尽くし、腕を競い合っていた。
その中で二大門派が勢力争いを起こし、正派であった碧仙門は邪教の一派である緑林と呼ばれる盗賊団の鋼鎖団に壊滅させられた。

第一部
『小競り合い』

一門を壊滅させられ江湖を追われた碧仙門の生き残りである一人娘の洪美琳は父、洪金威の右腕だった周青雷と旅を続けていた。

青雷
「お嬢さま、この辺りでひと休みして行きましょう」

美琳
「そうね、お腹も空いたしそうしましょう。
ねぇ青雷、中原もワタシが小さい頃に来たときと比べて賑やかになったわね、すごい人だわ」

青雷
「そうですね。わしは総帥が生きておいでの頃によくお供で参りましたが、店も増えましたね」

美琳
「あの店にしましょう」

二人はすぐ向かいにある酒処、酔酒憩廠に入った。

福章
「いらっしゃいませ。なにをお持ちしましょう?」

美琳
「まずはお酒を一本お願いするわ」

青雷
「ここは総帥とよく来た店で、空心菜炒めと牛肉炒めが美味しいのです」

美琳
「では、それをお願いするわ」

二人が料理を待っていると、店の外でなにやら揉めごとが起き始めた。

小柄な女
「おい、そこの兄さん。ぶつかっといて黙って行くつもりかい?」


「ぶつかったのはそっちだろ。誰に向かって言ってんだ!俺さまを誰だか知ってそんな口叩いてんのか?」

小柄の女
「それはこっちの台詞だよ!お前なんて知らねえな、さっさと名乗りやがれ」


「俺さまを知らねえんじゃ、お前潜りだな?よく聞け!天下の大泥棒、欣強とは俺さまのことだ、覚えておけ!」

小柄の女
「自分で大泥棒って言った奴は初めて見るわ。あたいの名は呂純月だ、貴様こそ忘れんな!」

欣強
「腹減った、ここで飯だ!」

純月
「あたいも飯にするとこだったんだ。お先に!」

美琳
「なんだか物騒ね」

純月
「おい、兄ちゃん。この店で一番美味い酒と肴を頼むよ」

福章
「では十年物の武状元、牛肉炒めと空心菜炒めをお持ちしますので少々お待ちを」

欣強
「おい、俺さまにもそれをくれ」

福章
「大将、最近ここも繁盛してきて僕一人では無理ですよ。誰か人を雇ってくださいませんか」

昭卓
「よし、早速貼り紙するとしよう。今日はわたしも店に出るから見つかるまで我慢してくれ」

蘭花
「お酒と牛肉炒め三皿、空心菜も出来たわよ-」

福章
「まずはこちらのお二人様、お待ちどうさま」

昭卓
「武状元はこちらのお嬢さんとそちらのお兄さんですね」

青雷
「お嬢さま、さっさと食べて行きましょう」

美琳
「どうして?ゆっくりしたいわ。ずっと歩き通しで疲れてるのよ」

青雷
「いざこざが起きないうちに早く出た方が」

欣強
「あー美味かった。勘定を頼む」

昭卓
「はい。全部で25文になります」

欣強
「そんなにすんのか?」

昭卓
「十年物の武状元は20文ですので、すみませんが」

欣強
「美味かったからしょうがねえな。あれ、財布がねえぞ」

純月
「ハハハ-天下の大泥棒って大口叩いたやつが、財布がねえだなんて笑わせてくれるわ!」

昭卓
「お客様、いかがいたしますか?」

欣強
「すぐ戻る。待ってろ」

昭卓
「お客さん、食い逃げは困ります。払えないなら働いて払っていただくのはいかがでしょう?ちょうど貼り紙をしようと思ってましたので」

欣強
「なにー?じゃあ、この刀でどうだ?」

昭卓
「そんな名もない刀では足りません」

純月
「往生際の悪い男だな。働いて返せばいいって言ってくれてんだ。潔く皿でも洗いな!」

欣強
「あったま来た!」

欣強はそう言うと隣の席にいた美琳に匕首を向けた。

青雷
「おい、なにをする?刀を向ける相手を違うんじゃないのかな。刀は向けるのはそっちの小柄なお嬢さんだ!」

純月
「おい、そこの老いぼれ。なんであたいなんだよ?」

青雷
「天下の大泥棒さんとやら、お兄さんの財布はそこのお嬢さんの懐の中だ」

純月
「なにを証拠に言いやがる?」

青雷
「さっき、ぶつかったふりして盗み取ったのを見たんだね」

欣強
「返せ!出さねえならその服を剥ぎ取るぞ!」

昭卓
「お嬢さん、このお方のおっしゃる通りなら早く出した方が身のためですよ」

純月
「どうしても出せっていうなら、あたいのこの剣に勝てたらお前の分も払ってやるよ!」

青雷
「あんな錆びた刀で斬られたら、傷が痛余計痛みますぜ。代わりにわしが相手になろうかな?」

純月
「誰でもいい。やるまでさ!」

純月は腰に差した双剣を抜き青雷にかかっていくが難なく躱されてしまい、青雷の長刀で首を突かれそうになった。

昭卓
「どうやらこのお方には勝てないようですね。潔く財布を出された方がいいですよ」

欣強
「さっさと出せ!」

純月は懐から掏った財布を出した。

純月
「役所に突き出すなら、さっさとやれー!」

欣強
「あれ?15文しかねえぞ」

昭卓
「では、やはり足りない分は皿を洗っていただかないとですね。そこでひとつ提案なんですが、お兄さんの分までこのお嬢さんに払っていただいてなかったことにするというのはいかがですか?」

欣強
「主人がそう言うなら仕方ねぇな。じゃあ俺さまは行くぜ!」

昭卓
「お嬢さんにはそうしていただければ、役所には突き出しませんから」

純月
「わかったよ。50文払えばいいんだろ!あれ?40文しかないよ」

昭卓
「では、10文分の皿を洗って行きますか?」

純月
「いいのか?」

昭卓
「ええ、それとこちらの方にお礼を言われた方が。手加減してもらえてなかったら大変なことになってましたよ」

純月
「さっきはすまなかった。大侠、是非ともご尊名を」

青雷
「名乗るほどの者ではない」

純月
「そんなこと言わずにさ。さっきの腕は只者ではないよ」

昭卓
「さぁ、早く皿洗いを頼むよ。福章、洗い場に連れてってやれ」

福章
「はーい。早くこっちだよ」

昭卓
「さぁ、今のうちに」

青雷
「ご主人、すまんな。そうだ、この辺りに宿屋はないか?」

昭卓
「それならうちはいかがでしょう。裏で客桟も営んでおりますので」

青雷
「では、二部屋頼む」

洗い場では-

純月
「なぁ、さっきの男はよく来るのか?」

福章
「どっちの男の人だい?両方とも初めてのお客さんだよ」

純月
「貼り紙を見たよ。あたいをしばらく置いてくれないか?」

福章
「じゃあ、大将に頼んでみなよ。ここは飯付き、寝床付きだよ」

純月
「そいつはいい!」

皿を洗い終わった純月が厨房に行くと、昭卓の妻の蘭花が料理をしていた。

純月
「女将さん、大将は?」

蘭花
「店も落ち着いたので、出かけたわ」

福章
「女将さん、この娘さんがここで働きたいって言ってるんですが」

蘭花
「お嬢さんはここらじゃ見ない顔だね」

純月
「今日この町に来たんです。福章に聞いたけどここは飯付き、寝床付きなんでしょ?ここにしばらく置いてはくれませんか?今夜の宿もないんです」

蘭花
「若い娘さんが宿もないんじゃ可哀想ね。亭主には明日にでも話しておくから、福章の隣の部屋で寝るといいわ」

純月
「有難うございます。あたいは純月と言います」

福章
「女将さん、そろそろ時間ですので閉めますね」

純月
「あれ、その料理は?」

蘭花
「これは賄いよ。二人で食べなさい」

二人は暖簾をしまうと蘭花が作ってくれた料理を持って裏の部屋へ向かった。

『縁あらば・・・』

江湖ではひとときの平和な日々が流れていた。
科挙試験で状元の位を授かった李連飛は、久しぶりに江湖を離れ中原に向かうため馬を走らせていた。

あと十里ほどで町に着くところで愛馬の黒艶雄に水を飲ませていると、後ろから一人の青年が歩いてきた。

連飛
「こんな険しい山道を歩いてどこまで行くんだ?」

青年
「そんなの俺の勝手だろ。あんたこそこんな山道を一人で歩いてるなんて危険だぜ」

連飛
「私の名は李連飛。一人が危険と言うのなら一人者同士、友とならんか?」

青年
「俺はずっと独りで世間を渡ってきたんだ。今更、誰とも連むつもりはない」

連飛
「これから久々に町へ行くのだが、飯を食うにも酒を呑むにも一人では退屈なのだ。友とは言わん、暇なときに酒の相手になってはくれぬか?」

青年
「あんたの暇つぶしの相手なんてごめんだぜ。俺にはやることがあるんだ」

連飛
「若者は夢があっていいな。私はもうなにもしたいとは思わない。なぁ、名前だけでも教えてはくれぬか?」

青年
「しつこいな。あんただってそんな年じゃないだろ?それなのにすべてをやり尽くしたって言うつもりか?なぁ、そんなに暇なら俺とここで闘え。それでもしあんたが勝ったら名乗ってやるよ」

連飛
「得物はその竹筒の中の剣か?」

青年
「あんたの得物はなんだ?まさか丸腰で俺と闘う気か?」

連飛
「私はこの扇子だけで十分だ」

青年は竹筒を左手に握りしめ腰を低く下ろすと、右手で柄を掴み真横に剣を抜いた。
そのまま、右足を後ろ足払いで一回転すると剣を真正面に突出し連飛目掛けて向かっていく。

連飛はその剣先を腰帯に差していた扇子で払いのけた。

青年
「ただの扇子かと思ってたら、鉄扇の使い手とはあんた只者じゃなさそうだな。俺の名は呉京虹だ」

連飛
「名乗ったということは、負けを認めるんだな」

京虹
「まだ負けと決まってないが、さっきも言ったように俺にはやることがある。怪我したくないだけだ」

連飛
「この一本道を進めば町だ。目的は町にあるのか?ならば乗せてってやるぞ!」

京虹
「いや、いい。歩いていく」

連飛
「強情だな。ではまた町で会ったときは酒を一緒に呑もう!」

京虹
「あぁ、わかったよ。もし会えたらな」

連飛は黒艶雄に跨がり、走り去った。

町に着いた連飛は酔酒憩廠の外に黒艶雄を繋ぐと、店へと入った。

純月
「いらっしゃいませ。なんになさいますか?」

連飛
「なにが一番美味い?」

純月
「酒なら武状元の十年物で肴なら牛肉炒めと空心菜炒めです」

連飛
「では、それをいただこう」

連飛が注文した酒を呑みながら肴に手を付けると、宿に泊まっている青雷が店へ入ってきた。

青雷
「純月、裏に食事を頼む」

純月
「なにをお持ちしましょう?」

青雷
「今日は魚にする。野菜はなんでもいい、適当に持ってきてくれ」

純月が出来上がった料理を裏の部屋に運ぶと、青雷に話しかけられた。

青雷
「一番奥の席に座っていた客人はまだいるか?」

純月
「一番奥?あぁ、小柄で品のある人のことですか?それならまだいますよ。お知り合いですか?」

青雷
「なぜだ?」

純月
「あの人も青雷さんのことをずっと見てたからさ」

青雷
「純月、外に黒毛の馬が繋いでないか見てきてくれ。奴に気付かれてはならんぞ」

部屋を出た純月はそっと裏口から外へ回り入口を確認し部屋に戻ると、黒毛の馬が繋いであったことを青雷に告げた。

純月が店に戻ろうとすると、入口の外で一人の若者が繋がれている黒毛の馬をじっと見つめている。

京虹
「おい、娘さん。もしかしたら中に腰に扇子を差した小柄な男が来てないか?」

純月
「なんでだい?あんたもあの男に用か?」

京虹
「ん?他にも誰かその男を探してるのか?」

純月
「ただじゃ教えられないね」

京峰
「金を取る気か?」

純月
「その背中の剣を見せてくれたら、教えてやるよ」

京虹
「剣に触るな、怪我するぞ!」

福章
「純月、ここにいたのか。店が忙しいときになにしてんだ!」

純月
「このお兄さんが店に入ろうかどうか迷ってたから入るように勧めてたんだ」

連飛
「娘さん、その男は私の連れだ。酒をもう一本頼む」

京虹
「やっぱりあんただったか。他にも店はあったのになんでまた会うんだ」

連飛
「縁あらば再びってやつだな」

純月
「お酒、お待ちどうさま」

京虹
「山羊肉はあるか?」

純月
「ええ。串焼きですか、それとも汁煮ですか?」

京虹
「両方くれ」

純月(独り言)
「両方って、どれだけ精付ける気だ?」

京虹
「なんか言ったか?」

福章
「純月、これをそちらのお客さんに早く!」

連飛
「山羊肉が好きなのか?」

京虹
「あぁ、そうだが。それがどうした?」

連飛
「いくら好きでも両方じゃ、あとで大変なことになると思ってな」

京虹
「大変ってなんだ?」

連飛
「力が有り余って抑えられなくなるということだ」

と、その時だった。一人の男が叫び声を上げながら逃げ込んできた。

「助けてくれ!」

純月
「お前は昨日の大泥棒!」

欣強
「お前こそ、なんでここにいる?」

純月
「あれからここで働いてるんだ」

欣強
「それより、早く匿ってくれ」

純月
「匿えってなにしたんだ?」

欣強
「いいから頼む」

純月が急いで欣強を厨房脇の暖簾の中に入れると、長身の男が血相を変えて乗り込んできた。

兆軍
「鉢巻き姿のちっちゃい男が来なかったか?」

純月
「ちっちゃいって何尺くらいでしょう?」

兆軍
「ごたごた抜かすな。おいちび娘、隠してたらただじゃおかねえぞ!」

純月
「今度はあたいをちびって言ったな!」

昭卓
「純月、どうしたんだ?」

純月
「こちらの柄の悪い兄さんが人を探してるみたいで」

兆軍
「なに-?柄が悪いだと!」

昭卓
「お客さま、他のお客様もいらっしゃいますのでお静かに願います」

兆軍
「このちび娘が生意気な口を叩いた挙げ句に、俺の追ってる男を匿ってるからだ!」

昭卓
「この娘が生意気を申し上げたことは謝りますので、お食事でないのならどうぞお引き取りを。あっと、生憎満席でした。重ね重ね申し訳ありません」

兆軍
「俺が誰だか知って言ってんのか?」

昭卓
「純月、知り合いか?」

純月
「いいえ」

兆軍
「そんなことを聞いてるんじゃねえ。いいか、俺は泣く子も黙る疾風烈火の兆軍さまだ、覚えとけ!とにかく鉢巻きの男を早く出せ」

昭卓
「これだけお客さまが大勢いますので、ご自分でお探しください」

すると兆軍は純月を引き寄せると、腕で思い切り首を締め付けた。

兆軍
「このちびがどうなってもいいのか?」

昭卓
「やめろ。その娘には関係ないだろ!」

我慢の限界を超えた昭卓は、卓の上の箸を掴み投げつけた。
と同時に後ろ左方向からも二本の箸が飛んできて、三本の箸はすべて兆軍の手に刺さった。

兆軍
「痛ってー、どいつが投げやがった?」

兆軍が手を離した隙に純月は、思い切り兆軍の向こう脛を蹴ると昭卓の方へ走り寄った。

兆軍
「畜生、覚えてろよ!」

連飛
「ご主人もなかなかやりますな」

昭卓
「店とこの娘を守りたかったもんで。でもそちらのお二人さんこそ、わたしよりも遠くから投げたのに見事命中させるとは恐れ入りました」

純月
「ところでそこに隠れてるお兄さん、もう出てきても大丈夫だよ」

昭卓
「純月、匿ってると言うのは本当だったのか?」

欣強
「助かったぜ」

昭卓
「そちらはさっきのお兄さんじゃないか」

純月
「おい、助けてもらったのにその言い方はないだろ。大将とそちらのお二方にきちんと礼を言いな!」

欣強
「おぉ。主人、それと大侠の哥さん方、有難うございました」

純月
「あたいには?」

欣強
「ありがとよ」

連飛
「一体なにをやらかしたんだ?さっきの奴は見間違えじゃなければ江湖で見たことある男だ」

純月
「疾風烈火って言ってたけど何者ですか?」

昭卓
「わたしが知る限りでは最近町に現れた、荒々しい二人組の男らしい」

純月
「そんな奴に追われるなんて、なにしたんだよ?」

欣強
「さっきの男がこの先の宝石問屋の裏口から荷を積み出してんだけど、ちょっと荷を離れた隙に小さな包みを一つだけ戴こうとしたところを見つかっちゃったんだ」

純月
「天下の大泥棒じゃなかったのか?それに真っ昼からよくやるよ」

連飛
「一人で荷を積み出すなんておかしいな」

欣強
「おいらもそこがおかしいと思ってさ。普通、どこかに荷を運ぶなら店の者が立ち会うはずだろ。他には誰も居なかったんだぜ」

京虹
「まさか?」

連飛
「あぁ、そのまさかだ!」

純月
「まさかって?」

連飛
「お代はこれで。すぐ戻る!」

京虹
「俺も行く!」

二人が宝石問屋に行くと表門にも裏口にも鍵がかかっている。

連飛
「どこから入ったのだ?」

と、そこへ欣強が走ってやってきた。

欣強
「おいらの出番かな?俺さまに開けられない鍵はないぜ」

欣強は懐から錐を出すと意図も簡単に鍵を開けた。
中に入り棚の木箱を一つずつ開けてみる。

京虹
「全部、空だぜ」

連飛
「ここの主人はどこだ?誰もいないなんておかしくないか?」

京虹
「留守と知って入ったんじゃ?」

欣強
「あの鍵はそう簡単には開けられないよ」

連飛
「これだけ大きな問屋だぞ。誰も残らず出かけるなんて不用心すぎる」

京虹
「まさか主人は連れ浚われたんじゃないだろうな」

ひとまず三人は酔酒憩廠に戻ることにした。

第二部に続く
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By hiyoko
#8900  ナビゲータ 翆朱雀天界主 (不良神)
通称 翆
お仕事 四海竜王 天上界を取り仕切る仕事をしている。(デスクワークが専門)
趣味 地上観察 生け花 狩り 筋斗雲に乗れる事 
時々孫悟空と日向ぼっこしながら天界から下界を観察し時々降りてくる。
―――――――――――――――――
一言 翆「時々出てくるのでびっくりしないでください~
物語がどんなふうに進んでるのかナビをしてるつもりなので
皆様感想があったらどんどんコメントをいれてくださいね^^
よろしくおねがいします~♪」
―――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
翆 これはこれは~最初から派手登場だな青雷。
お金を盗む彼女もすごい腕だな~スリかあ~ 趙嶋文卓色男♪
でも結婚してるのか・・隠れた強い男って何かあるんだよな~
英雄豪傑集まると中原もにぎやかだな~あ、李連飛 真打登場♪
これからが楽しみだな。 さてどうなる事か~旅はまだ始まったばかり~
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By ミコ
#8903 第二部『陰謀の兆し』

酔酒憩廠から走り出た兆軍は日が暮れるのを待ち、隠しておいた荷を馬に積むと根城とする祠へ向かった。

羽丹
「荷は無事に運び出せたか?」

兆軍
「それが姑息な奴に荷を盗まれそうになった挙げ句に、追いかけた先でちょっとしたことがあって」

羽丹
「盗んだとこを見られたのか?この間抜けが!それで、ちょっとしたことってなんだ?」 

兆軍
「そいつを問屋の先の酒処で捕まえようとしたら、三人の男にしてやられたんです」

羽丹
「どうせ雑魚だろ?」

兆軍
「それが箸を投げつけられたんですが、あの腕からして相当な奴らですよ。ひとりは店の主人であとの二人は店にいた客で、剣を背中に背負った奴と腰に扇子を差した奴だったぜ」

羽丹
「証拠は残してないから、足がつくこともないさ」

兆軍
「奴らを調べますか?」

羽丹
「ちょっと待て、扇子の男は小柄な奴じゃないか?」

兆軍
「ええ、そうですが。心当たりでも?」

羽丹
「江湖で神掌天龍と呼ばれてる奴かもしれん。扇子を腰に差してる男は奴だけだ。あいつが町にいるんじゃ仕事がやりにくい、様子を見に行くか!」

変装して町へ出て行った二人が酒処の外から覗いていると、男女の二人組が店へ入っていった。

昭卓
「徳さん、今夜もよろしくな。あれ、今日は詩音さんも一緒かい?」

徳明
「実は頼みがあって連れてきたんですよ。彼女にここで商売をさせてもらえないだろうか?」

詩音
「お客さんの似顔絵を描いて、気に入っていただければお代をもらえればと思ってるんですよ」

昭卓
「粋でいいね。構わないよ、やってくれ」

永偉
「酒を一本もらおうか?あれ、ちょっと来ない間に見ない顔が増えたな」

昭卓
「これは美麗堂の若旦那、久しぶりだね」

永偉
「反物や簪の買い付けで半月ほど旅してたもんでね」

純月
「お酒、お待ちどうさま」

昭卓
「この娘は新しく雇った純月で、徳さんの連れのお嬢さんは似顔絵描きの詩音さんだ」

永偉
「似顔絵か、いいね。描いてもらおうか」

詩音
「永偉の旦那は男前だから描き甲斐がありますわ。お気に召したら絵を買ってくださいな。お代は旦那のお気持ちで結構ですので」

柱の陰から覗いてた二人は福章に見つかってしまった。

福章
「そこのお坊さま、今ならお席が空いてますよ。今夜は徳さんの歌があるから、あとになると入れなくなりますよ」

兆軍
「お坊さん?あっ俺たち、いや拙僧のことか?ほ、方丈入ってみますかね」

羽丹
「まずは酒ともみじ揚げをくれ」

福章
「お坊さまが酒と肉ですか?」

羽丹
「ああ、そうであった。では、野菜炒めと茶を頼む」

兆軍
「なんで坊主に変装したかな、失敗でしたね」

徳明の歌が始まり、皆はうっとりしながら酒を呑んでいる。
一曲歌い終わったところで美琳と青雷が店へとやってきた。

純月
「今日は店でお食事ですか?」

美琳
「ええ、素敵な歌声が聞こえてきたからここで食べることにしたの」

徳明
「お客さま、なにか歌のご要望があればお申し付けください」

美琳
「では、『滄海一声笑♪』をお願いするわ」

徳明が歌い出すとそこへ連飛がやってきて、酒と肴を注文し一番奥に座った。

兆軍
「丹哥、扇子の男が来ましたぜ」

羽丹
「やはりオレが睨んだとおり李連飛だったな。オレは二年前からあいつに恨みを持ってた。そして次に会うことがあったら絶対に息の根を止めてやろうと思ってたんだ」

兆軍
「二年前といえば丹哥が鋼鎖団に居たときのことですね」

羽丹
「あの頃のオレはまだ下っ端で大きな仕事には就かせてもらなかった。なんとかして腕を上げて仲間に入れてもらおうと科挙試験を受けたが落ちた。あいつはその時、科挙の最高峰である状元の位を授かったんだ」

兆軍
「状元?そいつはすごい!丹哥の腕でも合格できないなんて科挙試験って難しいんですね」

羽丹
「それが落とされた理由が、殺気が強すぎるって言われたぜ」

とそこヘ京虹もやってきた。

兆軍
「丹哥、剣の男も来ましたぜ。もしやあいつも知ってるんですかい?」

羽丹
「いや、知らねえな。江湖でも見たことがない」

京虹
「また来てるのか?よっぽどこの店が気に入ったんだな」

連飛
「店も気に入ったが、ここに来ればまた京虹に会えるんじゃないかと思ってな」

京虹
「気持ちの悪いこと言うなよ」

連飛
「今夜は歌謡いの兄さんと、絵描きのお嬢さんが来てるぞ」

京虹
「夜も満席とはこの店は相当人気があるんだな」

純月
「京哥、はいお酒。ここが繁盛してるのはあたいがいるからさ。また山羊肉もいるかい?」

京虹
「山羊はもういい、もみじ揚げを頼む。一つ言っておくけど繁盛してる理由は料理が美味いからだ」

純月
「はい。それで、昼から山羊肉食ってつけた精気はどこで使ってきたんだい?もしかして紅蝶楼か?」

京虹
「紅蝶楼ってなんだ?」

純月
「この先にある遊郭だよ!」

京虹
「そんなとこ行くか!」

連飛
「では、山羊肉食ってつけた精気はなんに使うのだ?」

京虹
「やることがあるってあんたには言ったろ!」

純月
「やること?」

京虹
「人を捜してる」

連飛
「見つけたらどうするつもりだ?」

京虹
「復仇だ」

連飛
「おいおい物騒な話だな。歌謡いのお兄さん、『万里長城永不倒♪』を歌ってくれ!」

福章
「永偉の旦那、青菜炒めお待ちどうさま。あっ描けたんですね。すっごい、そっくりだ!」

永偉
「詩音さん、これ取っといてくれ」

詩音
「こんなに頂戴していいんですか?」

福章
「わぁ30文!十年物の武状元よりも高いよ!」

永偉
「さぁ、これを食べたら夢賭庵にでも行くかな。そこのお兄さん方も一緒にどうですかい?」

連飛
「夢賭庵って確かこの町にある賭場だったね」

永偉
「あぁ。お兄さんはどこかで見た顔だね」

連飛
「町に来るのは一年ぶりだが、前に会ったかもしれませんな」

永偉
「そっちのお兄さんは初めて見るね」

京虹
「俺はこの町は初めてだからな。夢賭庵ってのはここから近いのか?」

永偉
「すぐそこだよ」

京虹
「連れてってくれ」

連飛
「賭け事に興味あるのか?報仇だなんて言うから人を殺るのが趣味かと思ったよ」

京虹
「別に趣味で人を殺してる訳じゃない。人が集まる場所なら捜してる奴がいるかもしれないからな」

連飛
「では私も行くとするかな」

純月
「連哥はホントに京哥が好きなんだね」

連飛
「なぜだ?」

純月
「だって京哥の尻ばっかり追いかけてるじゃないか」

連飛
「そうじゃないさ。もしそこに捜してる奴がいたら京虹の腕前を見られるかもしれないからな」

二人は勘定を済ませると、永偉と一緒に夢賭庵へ足を運んだ。

兆軍
「どこかに行くみたいですぜ」

羽丹
「娘さん、あの三人がどこに行くか聞いてないかい?」

純月
「聞きましたけど、お坊さんたちには行けない場所ですよ」

兆軍
「なぜ行けないんだ?」

純月
「だって戒律違反ですもん、僧侶は賭け事禁止でしょ!」

羽丹
「確かにそうだな。では勘定を頼む」

羽丹たちも連飛たちを追うことにした。

羽丹
「この格好はまずい、着替えていこう!」

易者と漢方医に扮した二人は、夢賭庵という賭場の看板を見つけると中へ入った。
そこには連飛たち三人と、浪人風の男が中央で席を取っていた。

夢輝
「いらっしゃいませ!そこのお二人さま、中央席にしますか?外席にしますか?」

羽丹
「中央席で頼む!」

夢輝
「遊技は三人のお客さまで行いますが、どなたから先にやりますか?」

永偉
「連飛さん、京虹さん、どうするかい?」

連飛
「久しぶりなんだろ、旦那が先にやりなよ」

京虹
「俺はよく判らないからやってくれ」

兆軍
「丹哥、どうします?」

羽丹
「まずは様子見にお前がやれ」

浪人風の男
「じゃあ、あとはおれが入れば面子は揃うな」

夢輝
「それでは面子が揃いましたので、始めさせていただきます。イカサマ無しの真剣勝負!負けても勝っても恨みっこなしですよ!ではこの三本の竹籤を引いて赤い印のある方が親となります」

三人は夢輝の握る竹籤を同時に選んだ。

夢輝
「はい。赤い印はそちらの頭に巻物のお兄さん」

10分ほど過ぎ、手札、山札が全部なくなった。

夢輝
「松に鶴、桜に幕が揃った巻物のお兄さんの勝ちとなります!」

永偉と兆軍は賭けた金を全部浪人風の男に渡した。

兆軍
「もう一回だ!」

永偉
「じゃあ、今度は連飛さんがやりなよ」

羽丹
「今度はオレだ」

夢輝
「もうおひと方はどうしますか?」

羽丹
「勝った奴から取り返すさ、もう一度お前がやれ」

また同じように遊技が始められていく。
今度は連飛が親となった。

また15分ほど過ぎ、手札、山札が全部なくなった。

夢輝
「今度も柳に小野道風、桐に鳳凰が揃った巻物のお兄さんが勝者です!」

兆軍
「同じ奴が二度も続けて勝つわけがないだろ?イカサマだ!」

夢輝
「そこの長身の易者さん、ここはイカサマ無しって最初に言ったはずですよ!あんたも易者なら勝負運も自分で占ったらいかがですかね?」

永偉
「おれは常連だけど、この店はイカサマがないことで有名なんだよ!」

羽丹
「そこの扇子の兄さんはどうなんだ?今のをイカサマって見るか?」

連飛
「いいや、さっきもきちんと見ていたし、今は自分もやってたがイカサマ行為は見られなかったね」

巻物の男
「こちらの扇子の兄さんは潔い、そこの粋な兄さんも見るからに品がある。それに比べてそっちの易者の兄さんはどう見ても胡散臭いぜ」

兆軍は拳を握りしめ、立ち上がる。

兆軍
「やるっていうならやってやるぜ!」

京虹
「やるなら本気でやれよ!」

夢輝
「喧嘩は困りますよ、お客さん。やるなら外でお願いしますよ!」

兆軍
「よーし、表に出ろ!」

羽丹
「やめとけ!」

兆軍
「丹哥!」

羽丹
「ご主人、悪かった。また来るぜ!」

羽丹は兆軍の腕を掴み帰って行った。

兆軍
「丹哥、このままじゃ腹の虫が治まりませんぜ」

羽丹
「あの二人に加えてまたも邪魔者が現れたぜ」

兆軍
「奴らは仲間ですかね?」

羽丹
「連飛と一緒にいた剣の若造も江湖では見たことはないが剣客だろう。腕はどうだか判らないが目力もあるし甘く見ない方がよさそうだ。賭場にいた巻物の男もきっと凄腕だろうな、背中の笛を見たろ?あれは得物だよ」

兆軍
「もし奴らが手を組んだら、俺らに勝ち目はない。酔酒憩廠の主人も気になるし、荷を盗もうとした奴もこそ泥っぽいけど油断できないし、あのちびの女も気に入らねえ!」

羽丹
「まず雑魚をなんとかしないとな。弱い者に罠でも仕掛けるか!」

兆軍
「俺の見たところじゃ賭場の女主人は巻物の男となにかありそうだし、絵描きの女は間違いなく歌謡いの女で、酔酒憩廠の主人には女房がいる、それと俺を蹴飛ばしたあの生意気ちび女の四人だ!」

羽丹
「四人か、それなら打ってつけのがいるぜ。鋼鎖団の寨主の弟子だった四人組に頼むとしよう。奴らは女好きの上、金で動く連中だからな」

兆軍
「なんだか楽しくてワクワクしてきたぜ。思い知らせてやる、見てろよ~!」

一方、賭場に残った連飛たちは、、、

永偉
「続けてあんないい手が揃うなんて運がいいな、お兄さんここは初めてかい?」

巻物の男
「いいや、ここ半月ほど通ってるがなんでだ?」

永偉
「あんたみたいな強い人がきたら、なかなか勝てないと思ってさ。おれはこの先の美麗堂の永偉って言うんだ。良かったらお近づきの印に名を教えてくれないかい?」

巻物の男
「張無雲だ」

京虹
「なんだか場がしらけたな。帰ろうぜ!」

夢輝
「すみませんでしたね。これに懲りずにまた寄ってくださいな」

永偉
「おれはもうちょっと遊んでいくよ。お二人さん、また一緒に呑もうな」

連飛たちが店を出て少し歩き出すと、向こうから昭卓がやってきた。

京虹
「あれ、酒処の主人だよ」

連飛
「しーっ!」

二人が様子を窺っていると、夢賭庵の裏口の方へと入っていった。

京虹
「しーってなんだ?」

連飛
「さっきのをお前はどう見る?」

京虹
「どうって?俺は賭け事はまったく判らないし。まさかイカサマだったのか?あんたさっき違うって言ったろ!」

連飛
「正直、どうやったかは私も判らなかったが、あの店になんかありそうなのは間違いないな」

京虹
「それに気づいたのに金を払ったのか?永偉も知ってて見逃したってことか?」

連飛
「永偉もここの常連だと言ってたろ?やつも絡んでるかもしれんぞ。酒処の主人が賭け事をやることにはまったく問題ないが、なぜ裏口からなのかも訳がありそうだ」

京虹
「そういや、今日はどこで寝るんだ?」

連飛
「酔酒憩廠は客桟もやってるらしい、部屋が空いてたら泊まろうと思ってる」

京虹
「じゃあ、俺も行ってみる」

欣強
「哥さん方!さっきは有難うございました。お陰で助かりました」

連飛
「おっ兄さん、また会ったな」

欣強
「頼みがあってお二人のことをあれからずっとつけてたんです」

京虹
「男に付きまとわれるなんて気持ち悪いな。頼みってなんだよ?」

欣強
「おいらを弟子にしてくれよ」

連飛
「弟子?なんでまた」

欣強
「これまでに数々の仕事をしてきたけど、どうも宝石問屋での一件が気になるんだ」

京虹
「泥棒が泥棒を気にかけてどうする?」

欣強
「盗人には種類があるんだよ。ひとつは空き巣、そしてもうひとつは強盗だ。おいらの場合は前者でそれも貧しい者と善人からは盗まない。おいらの見たとこではあの一件は後者でそれも計画的だ」

連飛
「私たちはこれから宿へ行くが、そこでゆっくり聞こうか」

三人が酔酒憩廠に戻ると、純月が暖簾を片付けていた。

純月
「あれ、また来たの?あっ大泥棒さんも一緒かい?店はもう終わりだよ」

連飛
「そうじゃない、泊まろうと思ってな。部屋は空いてるかい?」

純月
「それなら女将さんに聞いてくるよ」

京虹
「三部屋だぞ!」

純月
「空いてるけど一部屋だけだって。でも二人部屋だから寝台はちゃんと二台あるよ」

連飛
「私は一緒でも構わんが」

京虹
「仕方ないな。歯ぎしりとかすんなよ」

連飛
「そういうお前こそ、寝言やいびきはごめんだぞ」

京虹
「お前はどうする?」

欣強
「一緒でいいならおいらは床で寝るよ」

三人は純月に裏の客部屋に案内された。

純月
「では、ごゆっくりどうぞ!」

京虹
「さっき店にいた綺麗なお嬢さんとそのお付きの男もここに泊まってるんだろ?」

純月
「青雷さんたちのこと?」

京虹
「あの暗そうな男は青雷っていうのか。二人一緒の部屋なのか?」

純月
「別々だよ。気になるのか?」

京虹
「いや、別に」

純月
「あたいと福章はその脇の木戸の部屋にいるからなにかあったら呼んでよね。じゃあ、おやすみなさい」

連飛、京虹、欣強
「おやすみ」

連飛
「ところで捜してた奴は居たのか?」

京虹
「居なかった」

連飛
「居たら殺ってたか?」

京虹
「居たとしても、まさかあそこじゃ殺らないよ」

連飛
「復仇はよくあることだが、理由はなんだ?」

京虹
「聞いてどうする?」

連飛
「代わりに殺ってやるとは言わないが、一緒に捜すくらいならできるぞ。私の方が多少なりともこの町のことは知ってるからな」

京虹
「あぁ。それよりさっきの話の続きをしよう!」

連飛
「金も取られて今日は疲れた。話は明日だ、お前も早く寝た方がいい」

欣強
「さっきの話って賭場でのことかい?」

京虹
「見てたのか?」

欣強
「ついてった言っただろ、外席の端でこっそりと見てたんだ。おいらは明日出かけるから、なんか掴んだら教えるよ」

京虹
「俺も明日は出かけるから戻ったら聞くよ」

欣強
「うん、じゃあおやすみ」

連飛はあっという間に眠ってしまい、欣強も床で大いびきで寝てしまった。

酔酒憩廠で仕事を終えた徳明と詩音は店近くにある家へ戻った。

徳明
「頼んでみてよかったな。永偉はサクラだったけど、それに釣られて他の客の絵も描けて金も稼げたし」

詩音
「酔酒憩廠の主人といれば安全だし、永偉もいい奴だしね。しばらくはここで落ち着けそうね」

徳明
「だけどさっき店にいた坊主を見たか?身なりは確かに僧だったが、奴らはきっと偽坊主だぞ。目つきが凶暴でなんか企んでいそうだったよ」

詩音
「徳明の人を見る目は確かだから、きっと間違いないわね。なにか悪いことが起こらなければいいけど」

第三部に続く
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By hiyoko
#8907 翆  連飛と京虹二人がこれからのストーリを進めていくのかな?とおもったら
違うんだなきっと・・いろんな思惑が重なって♪遊郭に宿をとって二人で楽しめばいいのにな
もったいない!もっとエンジョイしなくちゃ・・もったいない~!!
(食いつくところがちがうか・・) 
・徳明と詩音っていいよなー理想♪ 徳明がどんな過程で知り合ったか
そこも知りたいですー・・(話がそれるか・・。)
(ドキドキ隠していた青春をみて秘書箱を黙って読んでる・・青春だ~!!)←あかんやろ・・。
三部はどんなアクシデントいや話が展開していくのかな~もしかしてここでアクションがあるのか??
楽しみ~

あ・・・・・・・やばい~~~時間切れですー
また~皆さんも仕事はサボってはいけませんよー
(説得力無)
ではではまた~
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By ミコ
#8909 第三部 『ひとときの安息』

京虹はいろいろ気になってなかなか寝付けないので庭に出てみると、純月が剣を振っていた。

京虹
「おい、もう夜だぞ。なにしてんだ?」

純月
「見りゃわかるだろ、剣の稽古だよ。もしや連哥の歯ぎしりで眠れないのか?」

京虹
「双剣か、そこそこサマになってるな。手合わせしてやろうか?」

純月
「ホントか?」

純月は両手に握った剣を両外方向に回転させながら京虹の方へ向かっていった。
京虹は竹筒から剣を抜くと、先ずは純月の右手の剣を祓うと、左手で純月の左手首を掴み身動きが取れないようにした。
すると純月は祓い退けられた右手の剣を内側に向け、京虹の懐に差し向けた。

京虹
「なかなかやるじゃないか」

純月
「まだまだだよ。人の懐に入るのは得意なんだけどね。ところで京哥はなんでこの町に来たんだ?ホントに復仇が目的なのか?」

京虹
「あぁ」

純月
「それってまさか、親のため?」

京虹
「、、、、」

純月
「親の仇は息子がって言うけどさ。でも京哥がたまに見せるあの目つきはどこか寂しげで、でもなにか恐いようにも感じてたよ」

京虹
「連哥にも聞かれてまだ話してないけど、聞きたいか?」

猟師だった京虹の父親は、病弱な妻と一人息子である京虹のために毎日山奥で狩りをしていた。
今から二年前のある日、なかなか山から戻らない父を探しに出かけると傷を負った父が倒れていた。

父の指差す方を見ると、木の陰から男が走り去るのを見た。
京虹はとっさに父が猟に使っていた刀を手にその男を追いかけると、男は京虹に向かってきた。
必死で父から教えられた刀法で向かっていくがまったく敵わず、鎖で首を絞められ逃げられてしまった。

父を家に連れ帰ったが、内傷が酷く三日後に亡くなった。亡骸を葬り去ったあと猟師を継いだ京虹は病弱な母と暮らしていたが、ある日猟から戻るとその母も倒れていて、その場からは母が内職で作っていた狼牙の首飾りもいくつか消えていた。
母もその時の衝撃で数日後に亡くなり、京虹はその日から父の形見の刀を両刃の剣に研ぎ直すと独自で剣術を学び、亡き両親の復仇のため修行を続けていたのだった。

純月
「そいつの顔は見たのか?」

京虹
「顔に頭巾をしてたし、あのときの俺は必死で正直なにも覚えてないんだ。ただ手がかりは俺の首を締めた鎖の感触と母が襲われた時に落ちていたこの金属製の小さな金具だけだ」

純月
「その首にしてるのがお母さんが作った首飾りか?」

京虹
「そうだ、俺の守り神だ。お前は親はいないのか?」

純月
「あたいの父親は彫師だった。母親は物心ついた時にはもういなくて、父さんが言うには刺青を彫った客に唆されて連れて行かれたって言ってたよ。三年前に父さんも死んで独りになったあたいは彫師も継ぐこともできずにいたんだけど、父さんの弟だと言ってきた男に借金の肩代わりに女郎屋に売られたんだ。でも客を初めて取った日にそいつの財布を盗んで逃げてから、ずっとその仕事で生きてきたんだよ」

京虹
「盗みだけで世間を渡ってきたのか?」

純月
「言ってなかったね、自分で墓穴を掘っちゃったよ。でもここで働けるのなら食うにも寝るにも困らないし、もう足を洗おうと思ってる」

京虹
「俺も気になることが出てきたし、もう少しここにいるとするよ」

翌朝、連飛が庭に出ると青雷が刀を磨いていた。

連飛
「立派な刀ですな」

青雷
「そなたの扇子には敵いませんよ。ここに泊まってるのか?」

連飛
「ええ、しばらく町に居るつもりなので」

青雷
「仕事か?大侠!」

連飛
「私をご存知で?」

青雷
「神掌天龍の名は江湖に居た者なら誰もが知ってます」

連飛
「そなたも江湖に?」

青雷
「二年前まではな」

連飛
「二年前?私も長く江湖に居ますが、そなたの顔に見覚えないね」

青雷
「わしは表立って動いてはおらんかったからな」

連飛
「お連れのお嬢さんは奥方ですか?」

青雷
「違う、彼女は総帥のお嬢さまで、わしは総帥に仕えていた者だ」

連飛
「その総帥という方は一緒じゃないのか?」

青雷
「総帥を失い、同志を失い、行く宛もなくここへやってきたのだ」

連飛
「そなたは碧仙門の方なのか?」

青雷
「では、あのことも知ってるんだな」

連飛
「もちろんですとも。ではあのお嬢さんは第五代掌門であられた洪金威総帥の娘さんなのですね」

青雷
「総帥はお嬢さまをお助けしようと闘った末に、敵の寨主の手により無残な死を遂げられたのだ」

連飛
「そなたはもしや用心棒をされていた方ですね。あれから鋼鎖団も解散したと聞きましたが」

青雷
「寨主もその時の内傷が原因で数日後に死に、跡目争いから仲間割れが起きて鋼鎖団は解散した。約一年の間はお嬢さまと山奥で身を隠していたが、残党がまた悪さを始めたという噂を聞いて町へ出てきたのだ」

美琳
「青雷、誰と話してるの?」

青雷
「お嬢さま、おはようございます」

連飛
「私は李連飛。昨日、江湖からき者です」

美琳
「江湖?」

青雷
「この方は立派な大侠ですのでご安心ください」

美琳
「ワタシは美琳。昨日は店でお見かけしましたね」

連飛
「夕べから連れと隣の部屋に泊まってます」

青雷
「お嬢さま、朝飯は店で召し上がりますか?」

美琳
「ええ。お連れの方は?」

連飛
「起こしたら私たちもすぐ行きますので」

連飛は京虹と欣強を起こすと、店へ向かった。

純月
「おはようございます。皆さん、ご一緒ですね。なにを召し上がります?」

美琳
「今朝の日替わり定食はなにかしら?」

純月
「肉饅頭と魚粥、里芋の煮っ転がしです」

美琳
「お美味しそうね。ではそれを戴くわ」

五人は食事を始めた。

京虹
「連哥、俺は例の件で出かけるぜ」

昭卓
「おはようございます、皆さんお揃いで。あれ昨日の兄さんもいたのかい」

欣強
「大将、昨日は面目ない。おいらは欣強、夕べからこの兄さんたちに弟子入りしたんだ」

連飛
「ここの料理は実に美味い。女将さんの腕は大したもんだ、ご主人も一緒に作るのかい?」

昭卓
「ええ。純月も入ったのでわたしも厨房で女房と一緒に」

純月
「里芋の煮っ転がしはあたいが作ったんだよ」

京虹
「料理が得意とは意外だな。ところでご主人は賭け事に興味があるんだね。俺は夕べ一緒に行ったけどさっぱり判んなくて見てただけだったけどね」

昭卓
「か、賭け事ですか?」

京虹
「あの店には行くこともあるんだろ?」

昭卓
「ええ、近所の好でたまに。主人の夢輝さんとは町内の行事も一緒に」

京虹
「じゃあ、夕べは行事の打ち合わせでもあったのか?店を出た時にご主人に似た人が店へ入るのを見たからさ。それも裏口からね」

蘭花
「あなたー饅頭が蒸し上がる頃ですよ!」

昭卓
「おっと、ちょっと見てきます」

純月
「お待ちどうさま」

京虹
「俺は食ったら出かけるぜ」

欣強
「おいらも」

美琳
「連飛さん、今日はどこかへお出かけ?」

連飛
「いいえ、特に」

青雷
「お嬢さま、どうしても今日行かれるのですか?」

美琳
「青雷が行くところがあるのなら諦めるけど」

連飛
「どこに行かれたいのですか?」

美琳
「町外れにある尼寺までよ」

連飛
「美琳さんが宜しければお付き合いしましょうか?青雷さんも私が一緒なら安心でしょ」

青雷
「ええ」

京虹
「あぁ美味かった、これで一緒に払っておいてくれ。欣強行くか!」

京虹と欣強は一足先に出かけていった。

蘭花
「あの若い剣客の方になにか気付かれてるんじゃない?」

昭卓
「お前が呼んでくれて助かったよ」

蘭花
「あの二人なにしに町に来たのかしら?」

昭卓
「うん、なにかを探りに来てるようだが、少なくとも敵でないことは確かだ」

青雷
「では連飛さん、宜しく頼みます。お気をつけて」

連飛
「町外れまでなら私の黒艶雄で行きますか?」

美琳
「黒艶雄?」

連飛
「私の友である愛馬です」

美琳
「町外れまではどのくらいかかるのかしら?」

連飛
「馬で急げば半時もかかりませんよ」

美琳
「せっかく出かけるのですからゆっくり行きましょう」

連飛
「尼寺へはお参りですか?」

美琳
「お参りもですが、母に会いに行くんです」

連飛
「お母様?一門は壊滅されたのでは?」

美琳
「父は弟子たちには慕われていたけど、夫としては最低の人間だったの。家庭を顧みず高慢でまるで母は召使いのようだったわ。一門を大きくするには仕方ないことではあったけど、母には我慢できなかったのね。
ワタシが二十歳の時で今から三年前に尼寺へ出家してしまったの。
町へ行くと文を出したら返事をくれたので行ってみることにしたのよ」

馬をゆっくり歩かせながら一時ほどで尼寺、蓮妙寺へ着くと若い尼僧に取り次いでもらう。

連飛
「ここで待ってます」

美琳は門を入り中へ歩いていった。
本堂の前に立っていると、そこへ一人の尼僧がやって来て合掌し始めた。

若い尼僧
「紫妙さま、お客さまです」

美琳
「お母様!」

美紫
「美琳なのですね。元気にしてたの?」

美琳
「お母様こそ、全くお変わりもなく安心しました」

紫妙
「青雷は外で待ってるの?まさか一人で来たのではないでしょ?」

美琳
「町へは青雷と来ましたが、ここへは宿で知り合った連飛さんと」

紫妙
「連飛さん?江湖の方ね。お参りが済んだら外庭でお茶でも」

美琳は外で待つ連飛を呼びに行き、紫妙のところへ案内した。

連飛
「お初にお目にかかります。お嬢さまのお供で参りました」

紫妙
「遠くまで有難うございました。貴方の名前は存じていますよ」

連飛
「えっ、私のことを?」

紫妙
「わたしも江湖に居た人間ですから。一門にはほとんど関与していなかったけど、父は武術の道に精通していて科挙の試験官をしていたのよ」

連飛
「試験官を?ではお父様にお会いしていたかもしれませんね」

紫妙
「大分前に退いているから、多分会ってないわ。でも貴方のことは科挙界では噂になっていましたから」

美琳
「連飛さんは有名な方なのですね。青雷も立派な大侠だと言っていたわ」

紫妙
「美琳、あれからずっと気になってました。わたしの気がかりは貴女だけなのよ」

美琳
「お父様も亡くなったわ。戻ることはできないの?」

紫妙
「わたしはもう出家した身、あの人が亡くなったからと言って江湖に戻るつもりはないのよ」

美琳
「江湖にはもう家もないわ。お母様が戻ってくれるなら町で暮らしてもいいのです」

紫妙
「青雷にもう少し世話になったら、素敵な殿方を見つけて幸せになって欲しいの。連飛さんのような立派な方とね」

連飛
「わ、私ですか?」

紫妙
「のようなと言っただけよ。でもしばらく町にいらっしゃるのなら娘を宜しくお願いします。またお参りにいらっしゃい」

美琳
「わかりました」

二人は紫妙と別れ、戻ることにした。

連飛
「他にどこか行きたいところがあればお連れしますよ」

美琳
「そうね、もう少し町を回ってみましょう」

連飛
「ではこの先の丘の上にでも行きますか?」

連飛は美琳を馬に乗せると高台へ向かった。

美琳
「こんなに静かで素敵なところで暮らしていけたらいいのに」

連飛
「このまま青雷さんと旅を続けるのですか?」

美琳
「青雷と町に来たのはこれからのことを考えるためなの。一門の中で自分一人が生き残ったことに彼は責任を感じてるのよ。用心棒という立場でありながら父を救えなかったことをね」

連飛
「鋼鎖団は解散したが、残党がいるからですね」

美琳
「ワタシが幸せに落ち着くまでは、使命を果たそうとしてるのよ。母の言うように早く貴方のような良い人を見つけないとね」

連飛
「のようなでしたね」

美琳
「連飛さんがこの町に来た目的は?」

連飛
「私の父は厳格な武術家で、病弱だった私を鍛えようと八歳の時から私に武術を教え込みました。日が暮れるまで稽古をし体も丈夫になり、優しい母の手料理を食べ幸せに暮らしていたのですが、その幸せも長くは続かず母は病に伏し父も母を案じて武術の世界から遠のいてしまったのです。そんなある日、同じく江湖で武術家として名を馳せていた男と手合わせをした際に、母のことが気になっていた父は集中できず大怪我を負ってしまったのです。その怪我が原因で父も一年後に亡くなり、後を追うようにして母も亡くなりました。責任を感じた父の相手をした武術家の下で武術を学び続けた私は科挙試験を受け位を授かり、江湖で義を重んじる侠客として生きることにしたのです」

美琳
「連飛、貴方は誰かいい方がいるの?」

連飛
「いい方?」

美琳
「想い人とか情人とか」

連飛
「い、いませんよ。武功を高めるので必死でしたから」

美琳
「ワタシのことどう思う?」

連飛
「どうって、お綺麗で品があって知性もあって素敵な女性だと思います」

美琳
「そう言う見た目のことを聞いているのではなく、ひとりの女性として貴方の目にどう映ってるのか、貴方の気持ちを聞いているのよ!」

連飛
「のようなではなく、私で宜しければ幸せにできるよう努力します!」

美琳
「連飛ったら冗談も言えるのね。も、もしかして本気なの?そうなのであれば、ワタシもそのように貴方とは接するけど、それで宜しい?」

連飛
「ええ。ただその前にやらなければならないことが出てきたので」

美琳
「青雷も気にしてる悪党たちのことね。義を重んじる貴方のことだからそうして欲しいわ。この町から悪漢を退治して。ワタシも応援するわ」

一方、人捜しに出た京虹は手がかりとなる小さな金具のことを調べに鍛冶屋に出向いていた。

京虹
「ちょっと尋ねたいのだが、これはなにに使うものかな?」

鍛冶屋
「どれどれ?これは鐶(かん)と言って、普通は丸や角型で繋ぎや留め具に使う物だけど、六角形とは変わってるな」

京虹
「鐶?それともう一つ。鎖の感触はどれも同じかい?」

鍛冶屋
「素材が違えば感触も違う。錆びてれば臭いもあるし重さも違うな。丸い輪を繋げた鎖と喜平とでも違うよ」

京虹
「この町で鍛冶屋はここだけかい?」

鍛冶屋
「あぁ一軒だけだ。俺はここの二代目で二年前に親父が死んでから一人でやってるよ」

京虹
「ありがと。また来るよ」

その頃、徳明と詩音は遊郭、紅蝶楼に呼ばれていた。
大富豪である廻船問屋の息子が一番人気の伎女である秀華を見受けし嫁に迎えるために行われる祝儀の余興だ。

徳明
「本日はおめでとうございます。お招きいただき有難うございます」

詩音は二人のために絵を描いていた。

富豪の家の祝儀とあって、そこには商売人仲間である他の問屋も列席していた。

米問屋
「そう言えば今日は宝石問屋が来てないな」

酒問屋
「店も数日の間閉まってるし、なにかあったのか?」

綿問屋
「聞いた話じゃ、あそこの主人は裏で悪いのと繋がってたって噂もあるらしい。先代の主人はいい人だったが、息子が跡を継いでから店の評判も良くないしな」

絵を描き上げた詩音が新郎新婦に絵を贈ると、新婦の秀華がお礼にと一番のお気に入りの服をくれた。

祝儀が終わった徳明と詩音は酔酒憩廠に向かった。

詩音
「いい祝儀だったわね」

蘭花
「あらその服は?」

詩音
「新婦に戴いたの。一番人気の伎女、秀華さんのお気に入りなんですって」

昭卓
「廻船問屋の息子が見受けか、その秀華って伎女も玉の輿に乗ったってわけだな」

徳明
「そう言えば、祝儀には問屋連中がたくさん集まっていたんだが、宝石問屋の話が出てたよ、裏で悪いことしてたんじゃないかってね」

昭卓
「あれから店も閉めてるし、主人は一体どこに行ったんだろうな」

徳明
「さてと、俺は琵琶の調子を見てもらいに箏屋に行ってくるよ」

詩音
「わたしは好きな花が咲く頃だからちょっと小川辺りまで」

徳明
「気を付けて行けよ。終わったらあとで行くからな」

昭卓も店の準備を始めていると、繁盛してきたお陰で湯飲みや茶碗が足りなくなっているのに気付き、純月に買ってくるようにと遣いを頼んだ。

昭卓
「瀬戸物屋はこの先の二つ目の角だ。寄り道せずにまっすぐ帰るんだぞ!」

純月
「はい。じゃあ行ってきます!」

昭卓
「なあ蘭花、献立を増やさないか?」

蘭花
「豚肉の料理なんていいと思わない?甘辛く煮ると美味しいのよ」

昭卓
「麺類もいいな。私は麺を打ってみるかな」

蘭花
「では早速、買い出しに行ってくるわ」

昭卓
「麺の粉も頼むよ。町も最近、物騒だ。気を付けて行けよ」

第四部に続く
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By hiyoko
#8910 翆「えー遊郭にカップルでいくのかあ~徳明って仕事って言ってるけど違うだろ・・
詩音ちゃんとおいて自分だけ遊ぶだろ?・・(詩音ちゃんに後から殺されそう・・・うぇまあいいや・・いいんかい!・・)
何とな~くうちの天界にもいるから・・・。「話が変わるので元に戻します」
飛蓮いや違う連飛君はお譲さん覚えてるって・・ここでも瞳蓮は覚えてるんだなあ~キンゾウはどっかいに行っても
キンゾゾウ 過去形だからお父様で・・やっぱり死んでるのかな・・連飛君はきっと色々考えて心配してるのがわかる
実際いろいろあったらしいし(うまく何とかなったのかな…)この進展も見どころ
それにしても!連飛君は女性とお話いいな~(うらやまし)美琳との話の前に人探しなんですね~って
逆ナンパ!されてるじゃないかあ~~~・・・・・・いいのか・・・探し物を優先して・・・。

>翆!仕事!!!
翆「もう時間切れ???・」
じゃまたね~
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By ミコ
#8911 『卑劣な目論み』

同じ頃、夢賭庵ではー

夢輝
「この間の易者たちには参ったね。あんなのが来たら仕事がやりにくいったらないわ」

無雲
「ケチ付けてくる客はたまにいるが、あの二人はちょっと違う類の輩だな。また来るって言ってたし気をつけないとな」

夢輝
「永偉が連れてきた兄さんたちはどうだい?」

無雲
「連飛は江湖でも知られた侠客で、腕も相当な人物だ。もう一人の京虹は初めで見るが目つきに鋭さがあったし、竹筒の中の剣も伊達じゃなさそうだ」

夢輝
「ワタシたちもこれから仕事をしていく上でいろいろと考えることが増えるわね。江湖から来る侠客の中には義を重んじる者もいれば、悪漢もいるしね」

永偉
「こんちは!情報を持ってきたよ」

無雲
「なにか分かったか?」

永偉
「昭卓に聞いた話だとその前に店に怪しい僧侶が二人来たようだが、俺が易者たちの話をしたら風貌が似てたんだ。きっとあれは変装だよ」

無雲
「江湖から来た悪漢かもしれないな。盗賊団の頭角だった鋼鎖団が解散のあとも残党や弟子だった奴らもいるしな」

永偉
「あの二人がその残党だったりしてな」

夢輝
「私は商売の邪魔さえされなきゃそれでいいよ。さてと、夜の準備でもしようかしら、、、(ギクッ!)いたたたたー!こ、腰が!」

無雲
「ぎっくり腰か?」

夢輝
「前からたまに痛かったんだけど」

無雲
「筋を治すことくらいはできるが、ぎっくり腰は下手にやれないからな」

永偉
「ここに来るときに幟を持って歩いている按摩師を見たぞ。探しに行くか?」

夢輝
「行きたいけど、動けないのよ」

永偉
「おれがちょっと見てくるよ」

しばらくすると永偉がその按摩師を連れてきた。

阿宝
「どうしました?」

無雲
「ぎっくり腰らしい」

阿宝
「では診てみましょう・・・これはやはりぎっくり腰ですね。しばらくかかるのでお預かりしますよ」

無雲
「店はどこだ?」

阿宝
「この先にある知人の家を借りています。目印は軒先に蛇皮が吊るしてあります。良くなれば歩いて帰れるかもしれませんが、終わったらお送りしましょうか?」

無雲
「悪いから頃合いを見て迎えに行くよ」

無雲は阿宝と言う按摩師に夢輝を預け店に戻った。

阿宝
「先ほどのは旦那さんですか?」

夢輝
「いいえ、仕事仲間よ」

阿宝
「お仕事はなにを?」

夢輝
「この先で賭場をやってるんですよ」

阿宝
「それでは長時間、同じ体勢でいることが多いんですね」

夢輝
「それが原因ですか?」

阿宝
「ゆっくり揉んでいきますので、どうぞ楽になさってください」

背中から尻にかけてゆっくりとさすられていく。

阿宝
「痛いですか?」

夢輝
「いいえ。気持ちいいです」

阿宝
「ここ辺りはどうですか?」

夢輝
「そこも気持ちいいわね」

阿宝
「賭場ってもしや夢賭庵のご主人ですか?」

夢輝
「そうよ。今度遊びに行らしてね」

阿宝
「私は賭け事には興味がなく、さっぱり判らなくて」

夢輝
「素人さんにも親切だから大丈夫よ。あーホントに気持ちいいわ」

阿宝
「眠くなったら寝てくださって構いませんからね」

すると夢輝は疲れていたせいか、あまりの気持ちよさに寝てしまった。

しばらくして無雲と永偉は夢輝の様子を見に出かけて行くが、途中でお得意さんである妓女に会った永偉は簪を取りに店に寄ると言うので無雲は一人で迎えに行った。

無雲
「夢輝、迎えに来たぞ!」

中へ入るが、誰もいない。
すると奥から物音がしたので行ってみると、夢輝が床でもがいている。

無雲
「終わったのか?」

夢輝
「、、、」
夢輝は黙って頷く。

無雲
「まだ動けないのか?」

夢輝
「、、、」
夢輝は黙って頷く。

無雲
「まったくあのヤブが!おい、口が利けないのか?」

夢輝
「んーーん」
夢輝は首だけを動かし身振りで伝えようとする。

無雲
「点穴されてるんだな、喋れないのもそのせいか?」

夢輝は首を大きく縦に振った。

無雲
「畜生!すぐに解いてやる」

先ず口が利けるように点穴を解くと、そこに阿宝が現れた。

阿宝
「来るのが少し遅かったな」

無雲
「貴様、なにをした!なんの恨みだ?」

阿宝
「早く解かないと痺れで気がふれるぞ!恨み?それは自分の胸に手を当ててよく考えろ!」

阿宝はそう言うと出て行った。

無雲
「どこが動かない?」

夢輝
「腕と足よ。特に下半身は痺れで力が入らないわ」

無雲
「よし!あーーーっと」

夢輝
「どうしたの?」

無雲
「三ヶ所ほど触るぞ」

夢輝
「解くためだもの仕方ないわ」

無雲
「腕を解くには鎖骨、足は太腿、下半身の痺れは、、、」

夢輝
「下半身の痺れは?」

無雲
「ち、恥骨だ。い、いいのか?」

夢輝
「解けるならいいわよ。照れてどうすんのよ!」

無雲
「一瞬だ、行くぞ!」

無雲がトントントンと三ヶ所を突き点穴を解くと、夢輝は起き上がった。

無雲
「他にはなんかされなかったか?」

夢輝
「按摩はきちんとやってくれてお陰でぎっくり腰も治ったし、腰の痛みもなくなってるの。でもやってる間は夢賭庵のことや無雲のことを聞かれたわ。それで終わったあとにお茶を煎れてくれて、飲もうとしたら体を突かれて」

無雲
「お前にこんなことして狙いはなんだ!?」

同じ頃、蘭花は買い出しのついでに店が益々繁盛するようにと吉運宮に祈願に行っていた。
お参りをしようと中へ入ろうとすると若い宮司に声をかけられる。

阿能
「そこの若奥さん、ご祈願ですか?」

蘭花
「ええ」

阿能
「特別な経をご奉仕しておるのですが、いかがでしょう?お代は御布施で結構ですので」

蘭花
「そうですか?ではお願いしようかしら」

蘭花は宮司に、吉運宮の裏にある古びた廟に連れてこられた。

蘭花
「ここでやるのですか?」

阿能
「ここは聖地ですのでご安心ください。私のあとに続き唱えてください。さぁ目を閉じて、いいですか!」

茣蓙に座らされた蘭花は目を閉じて延能のあとに続き唱え始める。
しばらくすると、鐘の音が鳴り香が炊かれた。

蘭花
「この匂いはなんですか?」

阿能
「目を開けてはいけません!これは特別な香です、さぁ唱えなさい!」

次の瞬間、息が苦しくなり体が締め付けられるような感じに襲われた。

蘭花
「苦しいー!た、助けてー!」

目を開けるが、辺り一面が黄色い煙で覆われなにも見えない。
体はなにかゴツゴツしたもので縛られている。
そのうちに気を失ってしまったようだ。

店で蘭花の帰りを待っていた昭卓は、買い物へ行くと出かけたきり帰らないことを心配し、見に行くことにした。

肉屋の主人に商売繁盛の祈願に行くと言ってたことを聞いた昭卓は吉運宮に行ってみることにした。

参拝所にも居ないし、辺りを見渡すがどこにも蘭花の姿がない。
ふと裏の方に廟を見つけて近づいてみると、隙間から煙が漏れているのに気づき、いやな予感がした昭卓は入り口の木戸を蹴り開けた。

阿能
「やはり来たな」

昭卓
「お前は誰だ!ここでなにしてる?」

阿能
「早く、奥方を助けた方がいいぞ」

阿能が指差す方を見ると蘭花が巨大な数珠に巻かれ倒れている。

昭卓
「なんで妻にこんなことを!なんの恨みだ?」

阿能
「早く解かないと数珠が体を締め付け、骨が砕けるぞ!恨み?それは自分の胸に手を当ててよく考えろ!」

阿能はそう言うと走り去っていった。

昭卓
「これは眠り香だな。すぐに数珠を解いてやる!」

昭卓は手ぬぐいで口を塞ぎ、蘭花を抱え外へ連れ出した。
太い木の枝を折り、数珠と体の間に差し込み思いっきり引きちぎる。小枝で経脈を突き気道を開くと、蘭花は目を覚ました。

昭卓
「大丈夫か!どこか痛いところはないか?」

蘭花
「肋骨の辺りが少しだけ。私どうしたの?」

昭卓
「あいつになにかされたのか?」

蘭花
「煙がすごくてよく見えなかったけど、あいつの数珠を首に巻かれたと思ったら次の瞬間体を締め付けられて」

昭卓
「商売繁盛だなんて皆を騙してるのか?それとも!?」

一方、詩音は絵を描きに町の中央を流れる小川に来ていた。
岩に腰掛け絵を描いていると、後ろに人の気配を感じた。

阿晋
「お嬢さん、素敵な絵ですね」

詩音
「沈丁花と言ってこの頃に咲く花です」

阿晋
「絵は趣味で?それともお仕事ですか?」

詩音
「最初は趣味で始めましたが、今は少しですけどお金になってます」

阿晋
「売られているのかな?」

詩音
「この先の酔酒憩廠でお客さんの似顔絵を描いて、気に入れば買ってもらえるの。でも本当は花の絵を描くのが好きなので今日はここで」

阿晋
「では、描けたらその絵を僕に譲ってください。あっいきなりで失礼しました。僕は薬草売りの阿晋で、ここには薬草を採りに来ました」

詩音
「私は詩音といいます」

阿晋
「採ったら戻ります」

詩音が絵を描き終わるとちょうど阿晋も戻ってきた。

阿晋
「これは素晴らしい!50文で譲っていただけますか?」

詩音
「そんなに?悪戯で描いただけなのに申し訳ないわ。薬草は採れました?」

阿晋
「ええ。薬草も採れましたが、珍しい蝶も見つけて。この蝶は病気の治療に使える貴重な蝶なんです」

詩音
「私、蝶々大好きなの」

阿晋
「見てみますか?」

阿晋が小さな木箱を開けて見せると、そこには色鮮やかな蝶が入っていた。

詩音
「すごく綺麗ね!」

覗き込んで見ようとした次の瞬間、蝶が飛びだし詩音は首筋を刺されてしまった。

阿晋
「詩音さん、生き物は美しいほど危険なんですよ」

詩音
「危険?」

阿晋
「この蝶は青衫黃と言う毒蝶なんですよ!」

詩音
「えっ?痛い、すごく痛くなってきたわ」

するとそこへ徳明がやってきた。

徳明
「詩音、絵は描けたか?」

阿晋
「来ましたね」

詩音
「徳明、助けてー」

徳明
「お前は誰だ?なにをした!」

阿晋
「大好きな蝶に刺されて幸せだろ?でも三十分後には毒が全身に回り、男なしじゃいられない体になってしまうぞ!」

徳明
「解毒剤を出せ!なんの恨みだ?」

阿晋
「解毒剤なんてないさ!見てみろ、この蝶は女を刺し満足して死んだ。ってことは?考えれば答えは出るさ。恨み?それは自分の胸に手を当ててよく考えてみろ!」

阿晋はそう言うと走り去っていった。

徳明
「どういう意味だ?」

徳明は阿晋の言葉をもう一度考えてみる。

徳明
「この蝶は詩音を刺し息絶えた。満足?刺して満足?、、、そうか!」

意識が遠のきかけている詩音の首筋の刺し口に、そっと口づけをし吸ってみると甘い液体が出てきた。
すぐに吐き出し詩音を見ると、顔色が良くなり目を覚ました。

詩音
「私、助かったの?」

徳明
「毒はもう吸い出したから大丈夫だ」

詩音
「なんだか、首筋が熱いわ。吸い出したってまさかここを?」

徳明
「助けるためにはそうするしかなかった」

詩音
「毒が抜けなかったらわたし死んでいたかもしれないのね、恐ろしいわ」

徳明
「死ぬよりももっと恐ろしいことさ」

詩音
「死ぬより恐ろしいって?」

徳明
「男狂いになってのさ」

詩音
「えっ!?」

徳明
「狙いは詩音だったのか!?」

京虹はあれからしばらく町を歩いて回り宿へ戻ろうとすると、先の曲がり角で純月が浪人風の男と歩いているのを見かけた。
声をかけようとしたが、親しげで楽しそうなところを邪魔してはと思い見過ごすことにした。

宿に戻った連飛が食事をしようと店に行くと、昭卓たちが集まっていた。

連飛
「そんなに神妙な顔でみんなでなんの相談だ?」

昭卓
「それが先ほどこの三人の女性が、それぞれ奇妙な輩に襲われた。夢輝は按摩に行って点穴され、妻は祈願に行った先で巨大な数珠に巻かれ、詩音さんは毒蝶に刺されて」

連飛
「点穴に巨大な数珠、それと毒?まさか!」

無雲
「俺も夢輝のことだけじゃ気付かなかったが、あとの二人の話を聞いて連飛さんと同じことを考えてたんだ」

永偉
「同じこと?」

連飛、無雲
「四鬼邪班だよ!」

永偉
「四鬼邪?と言うことはあと一人が餌食になるってことか?」

昭卓
「そう言えば遣いに出たきり純月が戻ってないぞ」

連飛たちが純月のことを案じていると、欣強が戻ってきた。

欣強
「ただいま!例の宝石問屋の一件で判ったことがあったよ。あれから店は閉まったままなんで、あの店の使用人を探して話を聞いてきたんだ」

永偉
「それで?」

欣強
「使用人はあの前日に店に来た男に母親が病気だと聞かされ、休みをもらい実家に帰ったらしいんだ。でも母親の病気は嘘で翌日店に戻ったら、門に鍵にかかってて仕方なく友人の家に寝泊まりしてたらしい」

連飛
「では、主人が一人になるように仕向けられたらということか」

欣強
「そういうことさ。店に来た男の特徴が長身の男だって言うから、もしやと思って賭場にいた易者の似顔絵を描いて見せたらそっくりだって言うんだ」

一方、京虹は酔酒憩廠に戻ろうとすると鍛冶屋の前で声をかけられた。

鍛冶屋
「兄さん!待ってたんだよ。ふと思い出したことがあって、親父が使ってた古い道具箱を開けてみたらあの鐶があったんだよ」

京虹
「じゃあ、あの鐶は親父さんが作ったってことか?」

鍛冶屋
「親父は几帳面で、注文から納品まできちんと帳に書いていたんだ。見てみろよ、二年前に同じものを八十個作ってる。注文の品は絵も描いて残してあった。これだよ!」

京虹
「これは腕輪だな。一つの腕輪に鐶が八個付いてると言うことは十個の腕輪を作ったってことか。注文者の名前がないな、兄さんはその時のことは知らないのか?」

鍛冶屋
「俺はその頃見習い中だった。取りに来たのは十歳くらいの男の子で、親父も不思議に思ったが金は払ってくれたし。でもちょうど店の外に出た俺は、その子がむさ苦しい三十代くらいの男に渡してたのを見たんだ。あとで隣の阿六に聞いたら江湖の人間だって言ってたよ、それも悪いやつだって」

京虹
「ありがとな。この礼は今度、剣を磨いてもらうよ」

店に戻ろうとした京虹は、ふと先ほど純月と一緒にいた男の腕にも似たような物があったことを思い出した。すぐに引き返し純月と男が曲がって行った路地に走って行くと突き当たりには一軒の古びた家が建っていた。

第五部に続く
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By hikari
#8912 お久し振りです。

ミコさん☆

読むのが遅い私ですが、武侠モノが大好きなので一気に読んじゃいました。

ああ・・・ぎっくり腰の治療で不覚にも・・・。
モウゲイに助けられたからいいかしら :heart: :heart:

ミヤコさんの今後が心配ですー :ohgod:


そうそう、前回の7の最後、パンさんがおっとこまえ!でしたね。
「京へ  あとはお前が署名するだけだ。気が向いたら出してきなさい。 青雲」
このセリフ! :angry: :angry: :angry:
私、妄想小説なのにホロリ☆ときましたよ。
あんな男前のパンさんを、あんな徘徊ジイサンキャラにしちゃって申し訳ない :redface:


ワクワク小説の中、またホロリ(ポロリでもいいよ :bigsmile: )を期待してます :pinklove: